2010年5月6日-2
シンポ「IPCC問題の検証と今後の科学の課題」1
2010年4月30日に日本学術会議によって開催されたシンポの会場は、ほぼ満員。前の方の3行ほどの席ではそこそこ空いていたが、最後方では立っている人も少なからずいた。
受付で、
日本学術会議 公開シンポジウム(講演・パネルディスカッション)「IPCC(気候変動に関する政府間パネル)問題の検証と今後の科学の課題」
という計27頁の印刷物を渡された。配布資料として7つあった。
シンポ開始直前に席につくと、机に別の印刷物が置いてあり、それは、
槌田敦による「原因は気温高,CO2濃度増は結果」と題する日本物理学会誌掲載の論文
と、それに挟み込んであった、
槌田敦による学術会議長宛の2010年4月22日づけの「学術討論会開催の申し入れ書」
であった。これらは槌田氏側が配った物なのか。
「申し入れ書」には、「圧倒的多数はIPCC〔印刷物では全角文字〕の擁護者であり、余りにも政治的集会であると考えられます」とあり、「学術会議がなすべきことは、……「人為的CO2増による温暖化説」そのものの正否を学術的に検証することではないでしょうか」と述べ、温暖化自然原因説とどちらが正しいか徹底的に検証する学術討論会を開催することを求めている。
IPCCゲート事件では、そもそも気温データの改竄やでっちあげ疑惑が言われているのだから、先にこれを解明すべきだろう。シンポではしかし、IPCCゲート事件についての事実関係を判断した基調講演といったものは無かった。
「パチャウリ議長はvoodoo scienceだと言ったのは事実か」という質問に、西岡秀三氏はわからないと答えた。え?
http://reason.com/blog/2010/01/19/himalayan-glaciers-and-schoolb
によれば、
「the Indian Ministry of the Environment issued a comprehensive scientific review [pdf] of the dynamics of Himalayan glaciers which, among other things, concluded:
It is premature to make a statement that glaciers in the Himalayas are retreating abnormally because of the global warming.
The report was immediately denounced by the head of the IPCC, Rajendra Pachauri, who scathingly dismissed it as "schoolboy science."」
とある。「容赦なくはねつけた」という表現または解釈は誰のものかわからないが、「schoolboy science」とパチャウリ議長が言ったと伝えている(これもこの筆者か引用元の主張)。
辞書によればschoolboy humorはたわいのないユーモア、とある。「schoolboy science」とは、しっかりしたものでない科学、とか、schoolboyとは小中学校の男生徒ということだから、幼稚な科学という意味だろうか。なんであれ、レッテル張り的でしかもIPCC議長という立場からの権力的振る舞いをしたと推測できる。schoolboy scienceと言ったのか、voodoo scienceと言ったのか、いずれにしろ、そのような発言をしたならば、それは反科学的であり、しかも隠蔽的態度である。結局、パチャウリ議長がとりあわなかった論文のほうが科学的結論として妥当だったのであり、IPCCは訂正した。
したがって、パチャウリ氏は議長を退任するか、IPCCまたはそれを組織した国連機関はパチャウリ氏を解任するか、あるいはIPCCという組織を解散すべきである。
シンポの後の5月4日-6日に読んだ、
渡辺正.2010a.Climategate事件??地球温暖化説の捏造疑惑.化学 65(3): 34-39.
渡辺正.2010b.続・Climategate事件??崩れゆくIPCCの温暖化神話.化学 65(5): 66-71. 〔env01.cool.ne.jp/global_warming/gate2.pdf〕
は、わかりやすい。
1. シンポ全体の設計が、趣旨に照らして不適切であった
シンポは、「科学的観点から事実関係を明らかにし、その情報と認識を共有すること」を趣旨の一つとしている。ここでの「科学的観点」の意味がよくわからないが、ま、さておき。
岩澤康裕日本学術会議第三部部長による進行は、ほぼ不適切であった。しかしそもそも、IPCCゲート問題を明らかにするというつもりがあれば、この討論会そのものの組み立てと、それに密接に関わる討論者の人選が不適切だった。わたしなら、
a. よく調査して理解している人が、わかりやすく図解のスライドを示した基調講演をする。
b. その直後に、論評者commentatorと一般参加者から質問を受ける。座長は総括して、合意をめざす。
ように組み立てる。
学術会議がIPCC関係者を除いた調査チームを編制してこのIPCC問題を解明するのがもっと良い。少なくとも、ヒマラヤ氷河ゲート事件について(もっともこれ自身が気候ゲート事件によって隠蔽が剥がれたのだが)、査読過程を吹聴してIPCC報告書の信頼性を主張してきたのだから、具体的かつ各段階について詳細に、
ハスネイン氏の言動、ラル氏の言動、パチャウリ議長のライナ氏の研究に対する言動、
などについて事実関係と背後を説明すべきである。
西岡秀三氏(http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/19/11/07112001/003.htmによれば、IPCC第4次報告書の日本での第2作業部会報告書第10章:アジアのreview editorらしい)は、おわびを表明した。しかし、西岡秀三氏は、そして学術会議も、パチャウリ議長がvoodoo scienceと言ったのは事実かどうかも把握していないのだから、このシンポってなんだったのか。単純な話だと思えることについてさえ、「事実関係を明らかに」していないではないか。再度の同じ質問に、伊藤公紀氏もわからないと答えたが、むろん伊藤公紀氏には回答責任は無い。
RE:Review Editor(査読編集者)
CLA:Coordinating Lead Author(統括執筆責任者)
LA:Lead Author(代表執筆者)
と、いくつもの照合体制によって誤りは防がれるという主張は、反確証された(=IPCC自身も認めた)。まさに、メールを漏出によってわかったことでもあり、氷山の一角かもしれないわけで、IPCCの木で鼻をくくったような声明には、なんら説得力は無い。当初から氷河消失予想はおかしいという指摘があったが、無視されたのだから。もっとも、2035年までにという、比較的近い未来だった、その意味では経験的テストにかかりやすく確証または反確証されるという利点はあった。まだ2035年は来ていないのでそれまでにヒマラヤ氷河が消失する可能性はあるが、科学的根拠のある計算ではなく、したがって誇張とかではなくて、でっち上げであることが判明したのである。
50年後とか100年後の「予測」なんて、それだけならばノストラなんとかの予言と違わない。要するに、科学的確からしさの根本的な根拠、つまり温暖化対策をすべしという主張の根拠となっている気候モデルについて遠い未来でないと経験的テストができない。
学術会議は、たとえば渡辺正氏が挙げた問題点について一つ一つ検討すべきなのである。公開の席で、正反対的見解を取る者による議論を行なわせ、論理的整合性と事実についての判断との照合について、交通整理して判定すべきである。