桜の開花とともに樹々の芽吹きの季節がやってきました。我が庭の樹々も命を繋いでくれているかどうか、戦々恐々の思いで毎朝を迎えています。
というのも、千葉北西部の今冬の寒さは、私としても初体験だったほどの厳しさだったからです。
私が旧庵から持ってきて庭に移し替えた樹は、古い順に細葉榕(ガジュマル)、枸橘(カラタチ)、柘榴(ザクロ)、櫨(ハゼ)、シークヮーサー(五本)、シェフレラ、柚子、山椒、小手毬(コデマリ)、無患子(ムクロジ)と、十本あります。
落葉樹であれば、冬は葉を落とすのが当たり前ですが、冬だから葉を落としたのではなく、凍死してしまったのではないかと心配するほどの寒さでありました。
小手毬はいち早く蕾をつけて、異常がなかったことを証明してくれました。
数日前、山椒(上)と櫨(下)、それに柘榴に新しい芽が出ているのを認めました。
無患子も芽だろうか、それとも何か別の(よからぬ)ものか、と訝っていた先端が薄緑色に変化してきて、どうやら芽であると思えるようになりました。
ところが、常緑樹であるシークヮーサーは五本とも葉こそ落としていませんが、冬以降、一様になんとなく葉の色がくすんだようになって、強い緑色に戻る様子が見受けられないのです。
一つでも二つでも新しい芽を確認できれば安心できるのですが、今日までのところ、芽を出している様子はありません。葉は落としていないので、枯死しているとは思えませんが……。
もっとも心配なのは細葉榕(ガジュマル)です。
私の許にきてから二十年と、いま手許にある樹の中では一番付き合いが古いだけに、愛着も一入(ひとしお)のものがあります。
これも常緑樹なのに、今年の冬は寒さが半端ではないぞ、と感じ始めたころから、葉の端っこに茶変するところが出始め、それが伝染病に罹ったように、見る見るうちに拡がって、雪が降るころには完全に枯れて、すべての葉が落ちてしまいました。
南方の樹ですから、寒さに強いとはいえませんが、これまでの冬は耐えてきたのです。
ただ、我が庭ができて、移し替えるまでは鉢植えで、ちゃんと生き延びてきたのです。
もしかしたら、冬の寒さが原因ではなく、土が合わなかった、ということなのかもしれない。素人が我流でやっている上に、素人の勝手な判断ですから、間違っているかもしれませんが……。
生命力の強い樹で、剪定した枝を挿し木にすると、すぐ根づきます。重態に陥るとわかっていれば、空いている植木鉢に挿し木をしておいたのに……と後悔の臍を噛んでいるところですが、いまとなってはあとの祭りです。
細葉榕は沖縄ではキジムナーという妖怪が宿る樹だと信じられています。
人間と敵対するようなことはない妖怪ですが、住みかである樹を伐ったりすると、家畜を全滅させたり、窒息死させたりすることもあるそうです。
鉢植えにしておいたのを庭に植え替えようとしていたときにこの話を知ったので、窒息させられては敵わないと、ひときわ心を込めて植え替えたのでありましたが……。
枝を伐ってみれば枯死したかどうかわかるかもしれない、と思うのですが、鉢植えだったときは好む好まざるにかかわらず、伸び過ぎた枝を伐らなければなりませんでした。折角大地に移し替えるのだから、伸びるままに任せようと植え替えたのです。
初夏まで待って、新しい芽が出なければ諦めなければならない、ということになるでしょう。
決して故意に枯らせたわけではないけれど、大事な樹を枯らせてしまった私は万死に値するというので、キジムナーが遠征軍を率いてやってくるかもしれません。
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私も以前すんでいたお寺から母が大事にしていた実のなる山椒の木を移植して枯らしてしまった苦い経験があります。山椒のみの料理が好きな母にさんざん文句を言われました。
挿し木ですぐに増える種の樹なので、こんなことになるのなら、挿し木をしておけばよかったと悔やみますが、後の祭りです。
代わりに山椒は元気です。我が庵の山椒は実はなりませんが、葉を摘んで、パンと叩いていただけます。