Endurance running and the evolution of Homo
Dennis M. Bramble & Daniel El Leiberman
Nature Vol 432, 18 November 2004
面白い論文を読みました。
2004年のネイチャーに載った論文。
僕なりの要約をしました。
一部を抜粋して記録として残します。
本当なら、図も添付したいのですが、著作権の関係があるのでやめておきます。
イラストレーターが使えたら、僕なりの図に作り直して載せるのですが、、、今回は見送りです。
ヒトの走りは、多くの四足動物と比較して速度で劣るため、ランニングはヒトの進化において主要な役割を果たしてこなかったと考えられてきた。
Endurance running 持久走は、200万年前に獲得され、ヒトの形態的な進化に大きな影響を与えていた可能性がある。
ヒトはスプリンターとしてはあまり優れていないが、持久走ができる。
霊長類の中で持久走をするのはヒトだけである。
四足動物にスプリンターはたくさんいるが、持久走する四足動物は一般的ではない。
持久走をする四足動物は、社会的な肉食動物(犬、ハイエナなど)や、移動性の有蹄類(ワイルドビーストや馬など)くらいだ。
歩行とランニングでは力学的エネルギーの動きがまったく異なる。
歩行では、倒立振子inverted pendulum様に、位置エネルギーと運動エネルギーを交互に入れ替えている。
位置エネルギーが増えれば運動エネルギーが減り、運動エネルギーが増えれば位置エネルギーは減る。
地面を踏む下肢が伸びきったとき、重心が一番高い位置に着て位置エネルギーが最大値となるが、運動エネルギーは最小値となる。
腰を沈めて地面を蹴って体を前に押し出す時に運動エネルギーが最大値となり、位置エネルギーが最小値となる。
ランニングの力学的エネルギーはバネ質量力学mass-spring mechanismが入ってくる。
ランニングでは、位置エネルギーと運動エネルギーが同時に増減する。
位置エネルギーと運動エネルギーが底辺に達する過程(足を地面に押し付ける過程。支持期support phase)で、アキレス腱・足底筋膜・腸脛靭帯などの靭帯や腱に弾性エネルギーが蓄積される。
続く推進期propulsive phaseに弾性エネルギーを放出することで跳ねている。
靭帯や腱のバネによる弾性エネルギーがランニングの代謝コストの約50%を占めると推定される(!!!)
歩行は踵で着地(heel strike)するため、これらのバネはほとんど機能しない。
ヒトはほかのヒト科の動物と比較して、身体質量当たりの下半身の関節面積が非常に大きい。
股関節、膝関節、仙腸関節、腰椎椎体の関節面の増大は、歩行時よりもランニング時に発生する大きな衝撃力を受け止めるのに役立っている。
歩行では、片方の脚を前へ振って加速させることで発生するトルクが、体幹に伝わるが、もう片方の脚が地面についていることで、そのトルクに体幹が対抗することができる。
ランニングでは、前方に勢いよく振られる脚の加速が歩行時よりはるかに大きなトルクを発生させる。
しかし、ランニングの空中相aerial phaseでは、そのトルクを(空中にいるので)地面に伝えることで打ち消すことができない。
このトルクは、胸郭や腕の反対向きの回転によって発生するトルクで相殺される。
頭部と肩帯、胸郭と腰が分離していることが、それを可能にしている。
これは、歩行には(必ずしも)必要ない。
チンパンジーやアウストラロピテクスは頭部と肩帯が分離しておらず、ヒトにはないたくさんの筋肉で頭部と肩帯が結ばれている。樹上生活ではこれが有利に働く。
ヒトの特徴である広い肩幅は、上肢よりも大きな下肢を振ることによって発生する慣性モーメントを相殺するために、腕を振ることで発生させる対抗モーメントcounter balancing momentsを大きくしている。
広い肩幅も、歩行には必要なく、ランニングをするための解剖学的適応である。
ランニングは、歩行時と比較にならない大量の内因性の熱を発生させる。
この熱を処理できるかどうかが、持久走できるかどうかのカギとなる。
・蒸発散のために精巧に作られた、大量の汗腺
・対流効率をあげるための体毛の減少
・細長い体形
・顔面や頭皮で発汗によって冷却された静脈血が海綿静脈洞に流れ込み、内頚動脈の熱い動脈血を対向流熱交換countercurrent heat exchangeで脳に到達する前に効率的に冷却する。
項(うなじ)靭帯。
項靭帯は、犬、馬、野兎など走行に適した哺乳類、もしくは象のように大きな頭を持った哺乳類に共通してある収斂的な特徴である。
収斂とは、まったく別の進化の過程をたどっているにもかかわらず、同じ機能を果たすために似たような形態的特徴を示すこと。鳥類とコウモリの翼、魚類とイルカのひれ、など
ヒトの肉体は、持久走するための構造が随所に備えられており、ランニングがヒトの進化に深くかかわっていることがわかる。
現代社会がヒトの走る必要性を奪っているが、ヒトの肉体は走るようにできている。
以下は、論文の中に書かれておらず、僕の考察です。
頭部と肩帯、胸郭と腰の分離がランニングを可能にしましたが、副産物として、物を正確に投げることを可能にしました。
正確に物を投げられるようになったヒトは、狩りに投げ槍や、投槍器、投石器を用いるようになります。
ヒトは道具をより精巧に作るようになっていきいます。
皮肉にもこれが、ヒトが走ることの必要性を下げていったと思われます。
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