「シャペロン」とはフランス語で「介添人」の意味です。当日の朝です。まだカヤックが到着し始めた時刻です。
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ゲートブリッジが見える会場です。
ここは東京オリンピックでカヌーの競技会場となる「海の森水上競技場」です。
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ここでカヌースプリントとパラカヌーの日本選手権が行われました。
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PRESS席にはまだ誰もいません。
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日本カヌー協会が江東区カヌー協会を通じて我がカヌークラブにもボランティアの要請がありました。
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私の役目は「シャペロン」です。競技を終えた選手に対してドーピング検査を行います。シャペロンはドーピング検査員から権利と責任を委託されて、ドーピング検査対象選手の介添人を務めます。
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その流れを説明しましょう。レース前に対象選手を指定されます。レース終了後、上陸を待ち構えてドーピング検査員が当該選手に「ドーピング検査をします」と告げます。
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ここから尿を採取するまで監視するのがシャペロンの仕事です。指名された選手はレースに出た艇の重量検査後本人確認ができるもの(運転免許証等)を持って検査室に向かいます。この間の反応は選手マチマチです。「エッ!マジかよ」という選手もいますが、概ね「はい、分かりました」と答えます。
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その後は選手の行動がそれぞれに違います。すぐに運転免許証を取りに行く選手も居れば、クールダウンをする選手も居ます。
クールダウンする場合は水上に出られないので桟橋付近から対象選手の行動ウオッチします。帰ってきた選手に付き添って運転免許証等を取りに行く選手に同行してウオッチします。着替えをする場合は一緒に更衣室に入ります。マスコミインタビューがあれば、カメラに写らない位置でウオッチします。
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つまり、検査室に入るまでずっと付き添ってウオッチするのです。検査室に入ってもそれで終了ではありません。
別途正式なド-ピング室がありますが、今日は医務室を使いました。
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必要量の尿採取が終わるまで役目は終了しません。私が担当した選手の一人は十分な量の採尿ができませんでした。必要量は、我々が定期検診で提出するような少量ではありません。90ccが必要です。結構な量です。その必要量に満たなかったのです。だから普通は90ccが出る自信が無いと排尿しません。第一、レース前には排尿します。中には軽くするために、スタート前に被っていた帽子を捨てる選手が居るくらいです。それに競技中に水分は汗となって排出しています。だから簡単に必要量が排出できないのです。検査室でスポーツドリンクや水を飲んで自信がつくまで待ってから排尿に臨みます。
必要量に満たなかった選手はどうするか? 再採取するのです。彼はペットボトルの水を3本飲みました。彼は14時にもレースがあります。その前に昼食も食べなければなりません。検査室は後から後からドーピング検査を受ける選手がやって来て場所を空けなければなりません。選手控室に戻って尿意を待ちます。当然シャペロンも同行してウオッチします。約1時間後に再チャレンジした彼は無事必要量を排出できました。選手控室です。選手が大勢居る時はピリピリした雰囲気ですが、この時はドーピング検査対象選手と私だけでした。
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中には採尿できないまま次のレースに出て、その後採尿する選手もいるそうです。
有力選手は経験が豊富なので必要量の排出が上手です。名前を言えばカヌー界では誰でも知っている彼はとても上手でした。表彰式を終えた彼に偶然遇って「おめでとう!」と言ったら、取ったばかりの金メダリスを見せてくれました。こんな喜びも味わえます。
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仕事はレースが終ってから始まります。仕事が終わったらもう夕暮れが近づいています。
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貴重で楽しい経験でした。