人間はジャガーのように早く走れませんし、鷹のように大空を飛ぶこともできません。パスカルが言ったように考え世界を認識できるところに人間の特質があると思われます。確かに精神世界は人間に固有のもののようで、近年精神が宿る?脳に科学的な目が向けられ、日本では脳ブームというか脳嗜好が起きたようです。
日本人男性の健康寿命は七十才などという新聞記事を読むと、あまりの残り少なさに唖然とします。人間は度しがたく、まあ自分は平均よりは五年十年長いなどと思ってしまうのですが、鬼が笑っているでしょう。臨床医の生活は繰り返し中断消耗で出来上がっていますので、本を読んだり絵画や音楽を鑑賞したり旅行をしたりする時間はさほど多く取れません。などと書けば、それは誰も同じ事で、経済的に余裕のある分、お前は恵まれているとご指摘を受けそうです。
まあ、そうして残り少ない時間に唖然としながら、読みたい見たい聞きたいものを思い浮かべ豊かな精神生活を夢見るのですが、どうも少し違うような気もしてきます。脳の働きといっても、それは孤立したものではありませんし、精神的なものだけではありません。脳からつい知的な働きに目が行きがちになり、そして日本人の大好きな偏差値に偏った価値観に、いくらか自分も毒されていると気付いたからです。
暉峻淑子さんが書かれたご本とは、ちょっと違うのですが、本当の豊かさとは何かと考えてしまった朝です。