椎名誠の「風を見にゆく」。を読んだ。椎名さんの本は久しぶりだ。同世代の作家は多いが、椎名さんは感性に似たところがあるのか、身近に感じられる人で共に歳を取ってきた気がする。小説は読んだことがなく、エッセイや旅行記を何冊か読み、本の雑誌を時々立ち読みする程度だったのだが、その風貌、声と話し方に親しみを覚え、自分も何とか隊のイレギュラー隊員のような気分で居たものだ。
「風を見にゆく」の文章はいつもの椎名調は薄れ、いつになく落ち着いた大人の眼差しで風の光景が回想の中に綴られていく。椎名さんも振り返る年になったのだ。
極寒のシベリアから酷暑のインドまで、そして最後は椎名さんの愛する風の吹き荒れるパタゴニアで終わる。実に長く広く旅したのに改めて驚く。日本の日常では決して見ることのない光景の中に、様々な人が厳しい自然環境の中で自分達の生を生きているのがわかる。えっこれを、えっここでという日本では想像できない生活環境の中で人達が見せる篤い心に、唸ってしまう。
いくつかは、昔読んだ光景で、現実に自分が訪れることのない土地を旅していた気分になっており懐かしく感じた。椎名さんの柔らかい心と強い身体を通して自分も旅していたのだ。