子供の頃は本式の中華料理は大変なご馳走で、年に一回食べられれば良い方だった。好きな物をと言われて、いつも酢豚を頼んでいたような気がする。それが今に至るまで尾を引いている。
最近は懐に余裕が出来てきたので本格中華(メニューが材料ごとに十種類くらいある店)を年に数回食べる機会があるが、どうもレパートリーはさほど広がらない。勿論、食べずぎ嫌いで、いつも定番を頼むせいもあるが、実はそれだけではない。近隣に本格的な中華を供する店は数軒しかないのに、半数が四川を謳っている。四川を謳っていない広東上海系の店にも、本格と称する麻婆豆腐がメニューに入っている。昔からこんなに四川料理が多かっただろうか、どうも辛い料理嗜好が過ぎる気がする。
勿論、唐辛子や山椒の痺れるような刺激は時には美味しいのだが、はっきり言って過ぎた辛さは旨さを吹き飛ばしてしまう。故陳建民氏と並んだ写真を掲げた店が地方都市に二軒もあるなんて、四川料理の素晴らしさを伝え過ぎたような気もする。
調べると中華料理は上海、広東、四川、山東(含北京)、福建、江蘇、浙江、湖南、安徽の八つに分けられるらしい。多分日本では広東系が多かったのではと思うが、最近は唐辛子が浸食し四川もどきが増殖している。世界に冠たる料理王国の日本で、この八種類の中華料理が手軽に食べられないのは残念至極。地方都市でもこのうち四つ五つを、大都会に出れば中華街でなくとも八種類の中華が食べられるとありがたい。マスコミに踊らされる日本人なので、それぞれの美味しさを喧伝すれば息も絶え絶えの日本では馴染みのない中華料理も息を吹き返すのではないか。
唐辛子一杯の麻婆豆腐は、麻婆豆腐にあらず、しかも麻婆豆腐は晩餐のご馳走ではないはず。
嬉しいことに湖南を掲げる新規開業の中華料理店を見付けた。今月中にどんなものかと訪れたい。