佐渡の朱鷺は移入され、放鳥から自力繁殖できそうだが、「とき」はやがて消えゆく運命にあるようだ。恐らくひらがな二文字の女の子の名前が再び流行する日はないだろう。十年前には当院に二名の「とき」さんが居たが、二人共亡くなり、もう当院に「とき」さんは居なくなった。
明治、大正の時代には適当にひらがな二文字を拾って、生まれた女の子に名前を付けた気配がある。調べれば研究や報告があるだろうが、明治大正の老婆を診てきた経験から間違いのないところだろうと思う。有名なところではきんさん、ぎんさんがある。濁っていない方は、悪たれ坊主にからかわれただろうと思うが、そうしたことに負けないあるいはそうしたことを許さない雰囲気もあったのだろうか。
二文字と言っても「あい」とか「さき」などという洒落たのは憶えがなくせいぜい「きみ」さん「ちよ」さん止まりだ。どうみても適当に親父が二文字拾った感じのものがある。だから女の子が粗末にされたとか、可哀相と言うのは中るまい。時代が違うからだ。ただこう云っては何だが、親に教養がある場合には・・子と付けられているので、この婆さんは違うな感じたことはある。
そうはいっても中には思春期に「しか」とか「とめ」とか「えい」とか、これは例えばで挙げたので失礼があればお許し願いたい、の名前を恨めしく思った娘さん達が居たかもしれない。祖母は「とう」と言ったがこちらも子供で名前の感触は聞き損ねた。微笑むだけか、何を滅相もないと怒られたか。