なだいなださんが亡くなった。「ちくま」に二つ目の癌を告知されてから、何でも言ってやろうという気分だ、怖いものがなくなったと書かれ、芥川賞の「abさんご」の横書に、何処に新しい意義があるのかと疑問を投げかけておられた。本当はもっと大きな問題に、忌憚のない鋭い発言を用意しておられたような気がする。もう少し、この傾いた日本に自由闊達で鋭い助言を与え続けて欲しかったと思う。
何人かの精神科医の著書から様々な影響を受けた。その中でなださんは早い時期に読んだせいか、島崎敏樹さんと並んで最も大きな影響を受けた方だ。恐らく、私と同年代の医師には、なださんの書かれた物から影響を受けた人が少なからず居ると思う。
40年前に読んだ「人間、この非人間的なもの」。で目を開かされた。大袈裟かもしれないが、物の見方が変わったような気がする。決して異端ではないが、柔らかくも鋭い批評を煙たがる人達によって異端扱いされてきたように思う。
2013年6月、日本は柔軟で遠くまで見通せる平衡感覚に富んだ大切な精神を、また一つ失った。
*なだいなだの「人間この非人間的なもの」、島崎敏樹の「感情の世界」は共に大型書店でも見付けることができない。この二冊は本屋特別賞に値する、店長、読んでいるかね。