N氏は昔で言う蒲柳の質というのか、痩せて顔色が冴えない人で、もう還暦なのに、五十そこそこに見える。年に二三回風邪を引いたり、あれこれとはっきりしない不調を訴えて受診される。
先日も浮かない顔をしてやってきて、夜小便に起きるとそれから眠れないと訴える。某内科医院に掛かっているのだが、そこで心電図、胸部レントゲン、頭のCT、睡眠時無呼吸の検査など色々調べて貰ったが、異常がないと言われ、最後にエコーで前立腺肥大だと泌尿器に回された。しかし、泌尿器ではたいしたことはない、まあ、試しにと出された薬も効かず、原因は前立腺ではないと突き放されてしまった。どうしたものかと言う。
私の所で診察検査したわけではないので、はっきりしたことはわからないが、あれこれ調べて異常がないなら、一度精神科を受診してみたらと勧めた。そうしたら、実は既に精神科には掛かっており、睡眠薬も貰っていると言う。
おいおい、なんだそれじゃあ、私の出る幕はない。何でここに来たんだ、もう一度その棒内科医院某精神科に言ってよく話を聞いて御覧と勧めたことだ。「やっぱ、もう少し突っ込んで聞かないと駄目でしょうかね」。とN氏は情けないことを言いながら席を立った。
こうした話を聞き出すだけで、十五分くらい掛かった。患者の訴えをきちんと聞かず、次から次と鉄砲(検査)を打ち、挙げ句の果てに外れて獲物がないと、途端に冷たく異常ないと患者を帰す鉄砲医者の後始末は楽しくないなあ。