「あと十五年くらいは元気で居たいからね」と高血圧で通院中、姉さん女房のFさん。
「ああ、そうねえ」とお答えする。あんた来月80歳になるでしょ、ちょっと欲張りではないの、と心の中で思う。
「DHAって飲んだ方がいいかね」。世話焼き、おしゃべりの有閑婆さんのTさん。
「さあ、どうでしょう」。あなた、おつむははっきりしてるじゃない。八十過ぎてから、間に合うものかね。
大地主のK婆さん、受診するたび、開口一番、「ちっとも眠れない、一晩中起きてた」。
「そんなこたあない。鼾かいてましたよ」と脇で、小声でつぶやく婿爺さん。
城下町で育ったのが自慢のT婆さん
「足の裏が痺れて、歩けないだよ」と診察室に入ってくるなり、眼を三角にして訴える。
「病院じゃあ、これは治んないだってよ」。
もう何十回聞いたかなあ。でも歩いているじゃない。
殆どが婆さん、どうも爺さんよりも、欲張りのようだ。