第五十五期王位戦は4勝2敗1持将棋で羽生名人の防衛に終わった。羽生は本当に強いという当たり前の感想が浮かんでくる。勝負の世界ではあり得ない強さで、三十年前大山さんは空前絶後だと断じた見解を撤回しなければならない。
大山さんは常々一年二年の王者は王者ではないと二十年の長期第一人者君臨の自負貫禄を披瀝されたものだ。羽生はそれ以上ぶっちぎりの二十年で、衰えの気配はどこにもない。
木村一基八段は好きな棋士ではあるが、失礼を顧みずよく二回も勝てましたねと申し上げねばならない。挑戦者に名前が出た時から、又羽生勝ちと思っていた。しかも、一勝できれば上出来と思っていた。木村さんも強くなったと、木村ファンが聞いたら怒るだろうコメントを申し上げたい。
最終局の二日目はへぼの私が見ても木村八段が優勢だった。決め手を与えず、逆転する凄さは相変わらずの羽生力だが、解説陣は羽生名人の指した手だと何かあるんではないかとどうも形勢判断が及び腰で遠慮がちだ。
羽生名人はいろんな本を出されている。かなり売れているようだ。私も何冊か読んでいるが、ライターの手が入っていると推測している。誤解かも知れないが普通に文章を書くような人ではない感じがするのだ。羽生名人は天才で常人ではない。当たり前のことを書くなと言われそうだが、当たり前でもない。優れた人も常識というか常人の側面を持ち合わせているものだが、羽生名人は異彩を放つ異界の人だ。あの加藤先生も敵わない。