安部新首相は、首相補佐官の五人の枠を使い、そこに安部氏の気心の知れた人たちを据え、それによって教育、経済財政、規制撤廃などの諸改革を首相官邸主導で実行しようとしている姿勢を見せている。それは評価できる。日本の民主主義の進展のためには、従来の官僚主導の政治や、いわゆる族議員たちの利益誘導政治を根絶してゆく必要があるからだ。田中角栄氏のいわゆる「金権政治」以来長く続いた故竹下登氏などの経世会の派閥政治は、日本の国家としての「品格」をすっかり失わせてしまったからである。小泉前首相以前の日本の政治はあまりにひどかった。
日本の立ち直りのためには、地方政治の改革も欠かせない。岐阜県庁の裏金問題や、大阪市の第三セクターの赤字や同和行政、京都市政、北海道の破産自治体、佐藤栄佐久知事の福島県の汚職など、地方行政の腐敗と堕落は中央官庁の公務員と同様ひどすぎる。それらは特殊な地方の犯罪として済ませられない。これでは、道州制などとうていおぼつかない。安部首相は道州制の促進も政策の視野に入れている。首相はリーダーシップを発揮して、地方政治の遅れた低い自治能力、モラルの改善に尽くすべきである。これまでの日本の首相は、地方政治にそうした指導性を発揮したことがなかったから、国民はそれがあたりまえだと思っている。
この半人前の日本の民主主義の質を、学校教育の改革をてこに、高めてゆくことも国家の最高指導者である首相の重要な責務である。そうした政治の伝統を作って行かなければならない。
さらに、国会の組閣人事で国民が問題にしてよいのは、国家公安委員長のポストに、前任者 参議院議員の沓掛哲男氏と同様に、今回も二代引き続いて、参議院のドンといわれる青木幹雄氏の配下にあると見られる溝手顕正氏が就いていることである。この青木幹雄氏や故橋本龍太郎前首相、野中広務前自民党幹事長などは、日本歯科医師会からの一億円献金事件で、検察庁の聴取を受けていたのである。そうした派閥の出身である溝手顕正氏が公安委員長のポストにつくことなどは、普通のモラルの意識があればできない事である。
参議院の廃止や定数削減に含めた参議院改革も、日本の政治の本質的なあり方としての衆議院、参議院の二院制の検討も、引き続き日本国民の課題として、安部首相に実現を求めてゆくべきだろう。首相は新憲法の制定も視野に入れている。国家の理念とその形態を根本から問い直し、再構築する必要がある。そこで問われるのは国民全体としての資質と能力である。それを超えた憲法を作ることはできない。