鞍馬山にあった石の水瓶
天王寺へまゐりけるに、雨の降りければ、江口と申す所に宿を借りけるに、貸さざりければ、
752
世の中を いとふまでこそ かたからめ
仮りの宿りを 惜しむ君かな
返し
753
家を出づる 人とし聞けば 仮りの宿
心とむなと 思ふばかりぞ
(かく申して宿したりけり)
大阪の天王寺に参詣した折に、雨が降って来ましたので、神崎川の
江口と申す所で宿を借ろうとしたところ、貸さなかったので、
752
この世の中を 厭うほどにまで我執を離れて悟るのは難しいとしても、それにしても、あなたは一夜の宿さえお貸しになる事を惜しまれるのですね。
そうすると、応対に出た遊女と思われる宿の主らしい女が次のような歌を詠んで返しました。
753
この世を厭ってご出家なさった方と存じ上げますゆえ、仮の宿りに過ぎないこの遊女屋に泊まろうなど、ご執着なさらないよう思うばかりでございます。
(このように詠みつつお泊めしたそうです。)
謡曲の「江口」は、西行と遊女のこの和歌のやり取りに題材を取っている。
http://cubeaki.dip.jp/youkyoku/eguti/index.html