作雨作晴


日々の記憶..... 哲学研究者、赤尾秀一の日記。

 

ヘーゲル『哲学入門』第二章 義務と道徳 第三十九節 [道徳と職業(特殊性)]

2022年01月24日 | 哲学一般

 

§39

Die Triebe und Neigungen sind: 1) an sich betrachtet, weder gut noch böse, d. h. der Mensch hat sie unmittelbar als Natur­wesen. 2) Gut und böse sind moralische Bestimmungen und kommen dem Willen zu. Das Gute ist das der Vernunft Ent­sprechende. 3) Triebe und Neigungen können aber nicht ohne Beziehung auf den Willen betrachtet werden. Diese Beziehung ist nicht zufällig und der Mensch kein gleichgültiges Doppelwesen.

第三十九節[道徳と職業(特殊性)]

衝動と性癖は、1)それ自体としてみれば、善でも悪でもない。すなわち、人間は衝動と性癖を直接に生まれつきの自然本性としてもっている。2)善と悪は道徳的な規定であり意志に帰する。善は理性にかなったものである。3)しかし、衝動と性癖は意志との関係なくしては考えられない。この関係は偶然ではなく、人間は決して(意志と衝動や性癖とが)切り離された二重の存在ではない。

Erläuterung.

説明

Die Moralität hat den Menschen in seiner Beson­derheit zum Gegenstande. Diese scheint zunächst nur eine Menge von Mannigfaltigkeiten zu enthalten, das Ungleiche, was die Menschen von einander unterscheidet. Wodurch aber die Menschen von einander unterschieden sind, ist das Zufälli­ge, von der Natur und äußeren Umständen Abhängige. Im Be­sondern ist aber zugleich etwas Allgemeines enthalten. Die Be­sonderheit des Menschen besteht im Verhältnis zu andern. In diesem Verhältnis sind nun auch wesentliche und notwendige Bestimmungen. Diese machen den Inhalt der Pflicht aus.

道徳性は人間をその特殊性において対象とする。
このことは、さしあたっては、多様性の集合体のようにも見える。その中には人間を互に区別する不平等を含みもっている。しかし、人間を互いに区別するのは偶然性によってであり、その偶然は生まれつきと外部の環境に依存している。しかし、特殊性の中には同時に普遍的なものが含まれている。人間の特殊性は他者との関係の中にあるのであって、この関係の中にこそ、なおまた本質的にしてかつ必然的なさまざまな使命があり、これらが義務の内容を成している。

 

(※1)
Neigungen  性癖 と訳した。偏向、性向、傾向、気質などと訳される。「無くて七癖」

(※2)
kein gleichgültiges Doppelwesen.
gleichgültiges  切り離された
Doppelwesen.  二重の存在(本質)

この個所を岩波文庫版の訳者である武市健人氏は「人間は二つを無関係にもつ両棲存在ではないのである」と訳している。
しかし、「Doppelwesen. 二重の存在(本質)」を「両棲存在」と訳しても、その意義は十分に明らかにならないのではないか。

「Doppelwesen. 二重の存在(本質)」とは、人間の意識の自己内分裂とその結果として必然的に生じる意識の二重化(自意識)のことである。そのために、人間は生まれつきの衝動や性癖についても自らの意志と関係させ意識化するのである。

この訳文から見ても武市健人氏には、ヘーゲル哲学の根本的な功績である「意識の自己内分裂」についての核心的な認識を十分に確立し得ていなかったことがわかる。

(※3)
Bestimmungen. 
ここでは義務の内容を構成するところの「Bestimmungen」だから、「使命」と訳した。Bestimmungen. については、これまでもさまざまに考察している。

ヘーゲル『哲学入門』序論 四[意志と行為] - 夕暮れのフクロウ https://is.gd/CJm6Ff  など。

(※4)
この節では「人間の特殊性 Die Be­sonderheit」が主題になっているが、具体的には「職業」のことを考えればいいと思う。
職業は多様であり、そこにはさまざまな区別と不平等がある。職業は生まれつきや外部の環境によって決定される偶然的なものであるが、職業の特殊性には普遍的なものが含まれてある。

 

ヘーゲル『哲学入門』第二章 義務と道徳 第三十九節 [道徳と特殊性(職業)] - 夕暮れのフクロウ https://is.gd/I6AHMH

 

 

 


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