元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「箱入り息子の恋」

2013-06-25 06:36:12 | 映画の感想(は行)

 欠点は山のようにあるが、憎めないシャシンである。それどころか胸を打つような卓越したシーンもあり、鑑賞後の印象は決して悪いものではない。

 主人公の健太郎は市役所勤めの35歳。いまだ独身で恋人もおらず、そもそも人付き合い自体が苦手で親しい友人もいない。出世欲なんてものは持ち合わせておらず、就職してから13年間昇進どころか異動も無い。昼食は一度家に帰って済ませ、しかも食事の前には徹底して手を洗う極度の潔癖症である。

 そんな一人息子を見かねた両親は、本人の承諾を得ないまま見合いをセッティングする。その相手は有名企業の社長の娘の奈穂子で、ルックスもとても良いのだが、実は彼女は目が見えないのだ。

 どうして奈穂子が健太郎と会う気になったのか、その理由である健太郎の“小さな親切”が序盤で示されるのだが、残念ながら説得力は無い。視覚障害者で、しかも若くて可愛い彼女はこの程度の心遣いはしょっちゅう受けているはずで、彼の行為だけが特別アピール度が高いわけでもないだろう。

 さらに、見合いの席で奈穂子の父親は風采の上がらない健太郎を罵倒してしまうのだ。この会社社長は“(プロフィールが書かれた)紙切れ一枚あれば、オレはそいつの人間性を判断出来る”とまで豪語するが、ならばどうして見合いを許可したのか分からない。だいたい、こんな頑迷で威圧的な人物が見合い相手の親だったら、誰だってその場を立ち去りたくなるはずだ。

 それでも奈穂子の母親の計らいで何とかデートにこぎつける健太郎だが、数回会っただけで何と奈穂子は彼をホテルに誘うのだ。そもそも彼女は仕事をしておらず、一人で外出することもあまりない文字通りの“箱入り娘”のはずだが、いきなりの大胆な行動には観ているこちらも面食らうばかりである。さらに終盤には周囲の迷惑も考えない健太郎の“大暴走”を見せられるに及び、この監督(市井昌秀)には物語を整理する気も無いのかと、暗澹たる気持ちになった。

 しかし、それでもこの映画は捨てがたい。自分の殻に閉じこもっていた野郎の前に全てを投げ打つに値する魅力的な対象が現れ、なりふり構わず奮闘努力するという、青春映画の王道をシッカリとキープしているのだ。また手を繋いでのデート、メガネを掛けたままのぎこちないキスなど、チャーミングな場面も散見される。

 そして圧巻は吉野家での二人のやりとりだ。庶民的なファーストフード店のカウンターが、ラブストーリーの極上の舞台装置になるというこの仕掛けには舌を巻いた。

 主役の二人を演じる星野源と夏帆は好調で、当たりの柔らかいキャラクターが十分に活かされている。健太郎の両親には平泉成と森山良子、奈穂子の父母には大杉漣と黒木瞳という濃い面々を配していて、それぞれがケレンの効いた芝居も披露するのだが、ほとんど鼻に付かないのも有り難い。そして健太郎の同僚に扮した穂のかが意外な好演。主役は無理でも、味のあるバイプレーヤーとしての道は開けている。高田漣による音楽も捨てがたく、一見の価値はある映画かと思う。
コメント
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