チエちゃんの昭和めもりーず

 昭和40年代 少女だったあの頃の物語
+昭和50年代~現在のお話も・・・

第192話 冷夏

2012年07月28日 | チエちゃん
その年は、冷夏だった。
鉛色の雲が低く垂れこめ、真夏というのに肌寒い日が盆過ぎまで続き、気象庁はとうとう梅雨明け宣言を断念した。

そんな中で、チエちゃんは身体に変調を覚えていた。
何となく熱っぽく、気だるい。
それに、予定日を2週間過ぎても生理が来なかった。
これは妊娠に間違いない。
そうと決まれば、病気じゃないんだから、こうしてダラダラ過ごしていてもしょうがない。
部屋の片付けでもしよう!
そう考えたチエちゃんは、気持ちを切り替えて掃除を始めたのだった。
今まで、だらけていた分、張り切っていた。
洋服タンスの上に並べていた空き箱を整理しようと思いついた。
手を伸ばして、空き箱を取ろうとしたが、届かない。
チエちゃんは、少し背伸びをした。
あともうちょっとで、届きそう・・・
つま先立ちになって、さらに手を伸ばした。

その時、ピッとチエちゃんのお腹に痛みが走った。
思わずその場にうずくまる。
あっ、どうしたんだろう?
まさか、こんなことくらいで、お腹に影響はないよね。
ピッとした痛みは一度だけだったけれど、お腹がぼわーっと膨れるような鈍痛が続いていた。
少し休んだら、きっとよくなるはず。
チエちゃんはベッドで休むことにした。
夕方になってトイレに行くと・・・下着が汚れていた。
あれ? 生理? やっぱり妊娠じゃなかったのかしら?
その後も生理痛のような、いつもとは違うようなお腹の鈍痛が続いていた。

それからの2~3日は、ベッドに横になり安静にして過ごした。
けれども、出血はますますひどくなっていた。

とうとうチエちゃんは意を決し、産婦人科を受診することにした。
診察台に上がったチエちゃんに、医師は、
「ああ、こりゃもうダメだわ。赤ちゃんが流れて出てきてしまったよ。」
流産だった。
私の不注意で、赤ちゃんは死んでしまった。
ヒロシにも申し訳けなかったし、この世に生を享けるはずだった赤ちゃんにも何と言って詫びたらよいのか、分からなかった。



あれから30年。毎年夏になるとに思い出す。
後悔の念とともに、あの冷夏を。







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2 コメント

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・・・・ (谷やん)
2012-07-29 00:42:15
男だから分からないけど、そんなにデリケートなものなんですね、女性の身体って・・・
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>谷やん (チエ)
2012-07-29 21:47:46
女性は、デリケートでもあるし、強くもありますよ。

私の不注意のせいだと自分で自分をずっと責めてきたけれど、考え直してみると、たぶん、あの子はそういう運命だったと思います。
生き続けることができない障害のようなものを持っていたのだと思います。
ただ、1年に一度くらいは思い出してあげたいから。

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