「王監督引退」のニュースに耳を疑った。最近、プロ野球に関心が薄くなっていた私にとっても、大ショックだった。ファン心理とは別に、ヒーローが表舞台から消えて行くのは宿命とはいえ寂しい。
強いことの代名詞に引用された「巨人・大鵬・卵焼き」の常勝巨人を支えたのは、「ON」コンビだった。私は1943年生まれなので、長嶋さん(1936生)と王さん(1940生)の活躍を50年間見守ってきた一人になる。
長嶋さんのエピソードでいちばん印象深いのは、1957年秋の東京六大学野球の最終戦で放った8号ホームラン(当時の新記録)。我が家にテレビの無い時代で、茶の間のラジオに聞き耳を立てていた。ホームランの瞬間、実況担当のアナウンサーの声がスタンドの歓声にかき消されて聞き取れず、興奮のあまりにラジオを叩いて母親に叱られたことを鮮明に記憶している。
王さんのエピソードでは、鳴り物入りで入団しマスコミに追いかけられていた時にみせた態度だった。スター選手が多い巨人だけに、先輩のやっかみも相当あったようだ。マスコミ陣を先輩たちに目立たぬ場所に誘導して応対している姿を偶然、目にした。その謙虚さと心配りは大選手になり、監督になっても一貫していることは衆目の一致するところだ。
彼ら二人の活躍にどれだけストレスを癒やされたか測り知れない。一時代を成したONコンビが人生の秋を迎えた。秋は実りの秋というが、晩年をも意味する。心のどこかにぽっかり大きな空間が出来た気がする。