シネマ見どころ

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「駆込み女と駆出し男」(2015年日本映画)

2015年06月01日 | 映画の感想・批評
 ずいぶん丁寧に作られているという感想をもった。新聞記事に撮影の苦労話が出ていて、筆者も以前から気になっていたことだが近ごろの時代劇のカツラがいやに茶色っぽいのは目の錯覚ではなく本当に茶色なのだそうで、原田眞人監督はまずそれに注文をつけて黒に直させたという。つまり、そういう枝葉末節から嘘を排除してリアリズムに至る道筋をつけるというのは、話が荒唐無稽なほど必要なことだ。いや、何もこの映画がことさら荒唐無稽というわけではないが。
 幕府公認の駆込み寺、東慶寺は鎌倉にある。何しろ封建時代ゆえに女性のほうから離縁することはできない。唄の文句ではないが、離縁は男性側から所謂「三行半(みくだりはん)」を投げて成立する。しかしながら、現実には今でいうDVやら何やらで女性側にも離縁の権利を認めないとまずいという話になる。まあ、いってみれば少しは人権意識が芽生えた結果とも受け取れる。それで、江戸時代に縁切寺というものが成立した。どうしても離縁が許されない事情があって、亭主から逃れたい女が東慶寺に駆け込むのである。追っ手が来ても履き物を寺の門前から放り投げて中に入れば駆込みが成立し、あとは門前に控える駆込み宿が身を預かって事情を聴取し、縁切りの正当性が認められると初めて入山できる。それから2年の歳月を経て晴れて離縁が成立するというシステムである。
 江戸時代の末期、その駆込み宿の女主人(樹木希林)の前に医者を志望しながら戯作者に憧れる脳天気な甥(大泉洋)が現れる。そこへちょうど訳あって駆け込んできたふたりの女(戸田恵梨香と満島ひかり)とそれを取り戻そうとする亭主たち。加えて、ときの老中水野忠邦が奢侈禁止・風俗粛正を強引に推し進める天保の改革に便乗して縁切寺を廃止しようとする勢力との確執など、幕末の政情と江戸の人情の機微にふれ、物語にメリハリをつけている。井上ひさしの遺作をベースとした時代劇の収穫である。(健)

監督・脚本:原田眞人
原案:井上ひさし
撮影:柴主高秀
出演:大泉洋、戸田恵梨香、満島ひかり、樹木希林、堤真一、山崎努