1997年、生まれ育った奈良を舞台にしたデビュー作「萌の朱雀」でいきなりカンヌ国際映画祭カメラドール(新人監督賞)を史上最年少で受賞。2013年にはついに日本人監督として初めて審査員を務めるなど、世界が認める河瀬直美監督の最新作。その経歴と高い芸術性で、いつもなら少々襟を正して鑑賞する必要性すら感じてしまう河瀬作品なのだが、今回の題材は「あん」。ドラえもんも大好きなあのどら焼きの餡なのだ。これならとっつきやすい!
実は小生も無類のあん好き。初めて訪れた街で焼きたてパンの店を見つけたら、迷わず「あんパン」を買って食べるのが常なのだ。そんな時いつも思うことがある。あんといえども千差万別。一つとして同じ味のあんはないということ。微妙に違うんですよね。そしてあんパンのおいしいパン屋さんなら、ほかのパンもおいしいということ。いえる、イエル?!
主人公・千太郎が任されている、桜通りに面した小さなどら焼き屋「どら春」に、徳江という老女がアルバイトがしたいとやってくる。一度は断ったものの二度目にやってきた時に置いていったタッパー入りのあんを食べてみてびっくり!!その味に惚れ込んだ千太郎は徳江をあん作りの担当として雇うことにする。さあ、究極のあん作りの始まり、はじまり~~~。
“豆へのもてなし”の気持ちを大切にして、前日に小豆を水に浸して柔らかくし、何度もアクをとるところから、2時間かけて蜜漬けしたあと加熱し、豆が壊れないように注意して練って完成するまで、観る者は徳江が教えてくれるあん作りに釘付けになる。完成した光り輝くあんの何と美味しそうなこと!!これだけでも十分なのだが、河瀬監督が用意していたテーマはもっともっと大きなものだった。徳江が76才という高齢にもかかわらず働き口を探していたのには、深いわけがあったのだ。
徳江を演じる樹木希林の演技は相変わらず素晴らしいが、今回の収穫はなんといっても千太郎演じる永瀬正敏。40歳を超えて、こんないい味を引き出せたのは、やはり河瀬監督の力量だろう。とにかくその人物になりきるよう、生活の場や習慣まで変えるように注文したとか。作品に対する真剣さがいろんな画面からにじみ出ている。お見事!
(HIRO)
監督:河瀬直美
脚本:河瀬直美
原作:ドリアン助川
撮影:穐山茂樹
出演:樹木希林、永瀬正敏、内田伽羅、市原悦子、水野美紀 浅田美代子