近年、前後編に分けて公開される作品が増えてきた。ヒットすれば興収もほぼ倍増となり、関係者たちを潤すことになるのだが、前編の出来次第で後編の興行が左右されるのも確か。最近の成功例としては「64ロクヨン」(前編19億円⇒後編17億円)があげられるだろうか。「ちはやふる」(16億円⇒12億円)や「寄生獣」(20億円⇒15億円)はまだ合格としても、「進撃の巨人」(33億円⇒17億円)のように半減してしまう例もある。観客は何ともシビアだ。さて、この「3月のライオン」の結果はいかに。
原作は羽海野チカが描いたベストセラーコミック。2007年に連載が開始され、今も続行中である。前編で描かれたのは、17歳の将棋のプロ棋士桐山零と、個性際立つ棋士たちとの闘いの数々。静かなはずの対局場面が、まるでアクション映画のように感情の高まりでぶつかり合う。監督は大ヒット作「るろうに剣心」ではじけた大友啓史。まさに本領発揮、特に最高峰を決める師子王戦トーナメントで、将棋の神の子と恐れられる宗谷名人との対戦を最後に持ってきたのは効果的だった。これはもう、後編を見るっきゃない。
主人公の零を演じるのは、神木隆之介。「妖怪大戦争」で日本アカデミー賞新人賞を受賞して以来、「桐島、部活やめるってよ」「バクマン」など、数々の話題作に出演。今回も原作の零になりきっている。共演陣も豪華で、現在NHKの朝ドラ「ひよっこ」で活躍中の有村架純の汚れ役をはじめ、対戦相手となる棋士に佐々木蔵之介、伊藤英明、加瀬亮などが扮し、その熱演ぶりが見る者の心をとらえて離さない。
後編は零がかかわってきた二つの家族のエピソードを中心に描かれる。一つ残念だったのは、零を温かく包んでくれている川本家の三姉妹のところに、実の父親が舞い戻ってきたときに、思わず零が発してしまった言葉が「人間のクズ」。原作にあるなら仕方がないかもしれないが、こんな最低の言葉を聞いてしまうと、見るほうも思わず引けてしまい、その後は零を応援する気が失せてしまったのも確かだ。
ラストで再び宗谷名人との対戦に向かうシーンと、バックに流れる「春の歌」は好印象だったが、現実社会では14歳の最年少プロ棋士、藤井聡太クンのデビュー18連勝の話題でもちきりだ。「事実は小説(映画)よりも奇なり」とはよく言ったものだが、彼の活躍が果たしてこの作品には吉と出るか、凶と出るか、気になるところである。
(HIRO)
監督:大友啓史
脚本:大友啓史、岩下悠子、渡部亮平
撮影:山本英夫
原作:羽海野チカ
主演:神木隆之介、有村架純、倉科カナ、染谷将太、清原果耶、佐々木蔵之介、加瀬亮、前田吟、伊藤英明、豊川悦司、高橋一生、伊勢谷友介