シネマ見どころ

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「スリー・ビルボード」(2017年 アメリカ・イギリス映画)

2018年02月07日 | 映画の感想・批評
 
 ゴールデン・グローブ賞のドラマ部門作品賞と同主演女優賞を射止めた秀作である。3月に発表されるアカデミー賞でも最有力候補との呼び声が高く、フランシス・マクドーマンド(ジョエル・コーエン夫人)は私の贔屓の女優だけれど、お見事というほかない好演だった。何しろこの人は過去にオスカー(「ファーゴ」)、トニー賞、エミー賞の最優秀主演女優賞をいずれも受賞しているという希有の女優だから当然といえば当然のことか。
 原題のとおり、舞台は米国の中東部ミズーリ州の片田舎エビングである。もっともエビングという町は架空らしい。ビルボードというのは映画に登場する巨大な看板のことだ。
 半年以上前に娘を強姦のうえ殺されるという悲劇から立ち直れないミルドレッド(マクドーマンド)は、一向に進展しない警察の捜査にいらだちを覚え、いまは使われていない道路沿いの三枚の巨大看板に抗議を込めた広告を張り出す。その広告が警察署長を名指しで批判する内容だったために、まず警察が態度を硬化し、町の人々の多くもかの女に批判的な目を向ける。
 署長(ウディ・ハレルソン)は膵臓癌にかかっていて余命いくばくもない身であり、その人柄は家族や部下から慕われ、住民の評判もよい。だから、かれの終末の人生をことさら荒立てようとするミルドレッドに人々の目は冷たい。しかし、私怨に凝り固まったミルドレッドは警察に対する不信感を募らせ、頑なに心を開こうとはしない。
 すぐに切れる警官のひとりジェイソン(サム・ロックウェル)が特にミルドレッドに辛く当たるのだが、誤解が誤解を生んで、かの女の怒りが頂点に達すると想像を絶するようなとんでもない悲劇が惹起されるというのも、先が読めないこの映画のおもしろさだ。
 ただし、早合点しないでほしい。一旦どん底に転落してさえも明るい未来に一歩を踏み出そうとするのがアメリカ映画の定石である。人間という生き物の心の奥深くには底知れぬ闇がある。しかし、決して絶望するな。どんな人の心にも善が住んでいるのだといわんばかりに、さわやかで不思議な余韻を残して、この映画は終わるのである。
 冒頭に流れるのはアイルランドの名曲「庭の千草」。クライマックスともいえる見せ場でも使われていて、その絶唱が大きな効果をもたらしていることを追記したい。(健)

原題:Three Billboards Outside Ebbing, Missouri
監督:マーティン・マクドナー
脚本:マーティン・マクドナー
撮影:ベン・デイヴィス
出演:フランシス・マクドーマンド、ウディ・ハレルソン、サム・ロックウェル、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、ジョンホ-クス、ルーカス・ヘッジス、アビー・コーニッシュ