どちらかというと地味な存在だったわが滋賀県が最近話題になっている。一つは昨年の調査で男性の平均寿命が一番長いという結果が出たこと。TVでは鮒ずしや近江牛を食べているからなどと解説があったが、そんなに頻繁に食するものでもないし、むしろ交通の便が良いことや、医療機関が近くにあって充実していること等が要因なのではとも思う。残念ながら『健康寿命』は第1位ではないらしい…。もう一つは昨年の10月、滋賀県の魅力を体感できる拠点として東京の日本橋に誕生したアンテナショップ「ここ滋賀」が、非常ににぎわっていること。予想をはるかに超える集客が続いているそうだから何よりだ。この日本橋を舞台に、さらに琵琶湖や田園、街並みなど、滋賀の美しさを生に伝える1本の映画が誕生した。
8年前、連続ドラマとしてスタートした東野圭吾原作の「新参者」シリーズ。2本のスペシャルドラマに映画「麒麟の翼~劇場版新参者~」経て、遂に完結。本作ではメインとなる事件の裏に隠された哀しい事実が感動を呼ぶ形となっているが、最終作ということで、阿部寛演じる主人公加賀恭一郎自身の過去に関わる大きな秘密が明らかになる。
事件は東京葛飾、荒川沿いのアパートで死後20日ほど経過した腐乱死体が発見されたところから始まる。DNA鑑定の結果、死体は滋賀県彦根市在住の押谷道子だと判明。捜査班はその部屋の住人だった男が加害者なのではと捜査を開始するが、同時期に新小岩の河川敷でホームレスのビニールハウス放火事件も発生していて、この二つの事件の関連性を疑ったのが、加賀の従弟の捜査一課刑事・松宮だった。
舞台が地元となると否応なしに物語にどっぷりと入り込んでしまうのは自然だろうか。さらに物語の鍵を握る演出家・浅居博美を松嶋菜々子が演じ、殺された押谷と同級生ということで何と彦根市出身だという設定に胸躍らされることになる。今は東京明治座の演出家として成功している博美にはつらい過去があり、父は呉服屋を営んでいたのだが失敗し、父娘で夜逃げする羽目に。本作は撮影所のスタジオにセットを組むということを一切せず、すべての撮影をロケーションで行ったそうだが、この大俯瞰の夜逃げシーンの街中が何とも幻想的で美しい。私事で恐縮だが、この通りは彦根ではなく「ながはま御坊表参道」であり、博美が生まれ育った店は何とわが教え子の実家の呉服店がロケに使われていて、感慨深いものとなった。よくぞこれほどまでに美しく長浜の街を撮ってくれたものだと、思わず涙が出てきてしまったのも紛れもない事実である。
涙といえば、この夜逃げから名作「砂の器」を彷彿とさせる父娘の道行きが描かれるのだが、14歳の博美を演じる桜田ひよりがとにかく健気で、可哀想で、久しぶりに大泣きさせられてもらった。それに応える小日向文世の名演も忘れ難い。この二人がその後加賀に深く関わることになるのだが、「半沢直樹」や「陸王」を手掛けた福澤克雄監督、感動の波の立て方が実に上手い!!
(HIRO)
監督:福澤克雄
脚本:李正美
撮影:橋本智司
原作:東野圭吾
出演:阿部寛、松嶋菜々子、津端淳平、田中麗奈、キムラ緑子、烏丸せつこ、桜田ひより、及川光博、伊藤蘭、小日向文世、山崎努