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ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男(2017年イギリス)

2018年04月04日 | 映画の感想・批評
 

1940年、第二次世界大戦初期のイギリス。ヨーロッパではナチスドイツが勢力を拡大してきて、フランスは陥落寸前、いよいよイギリスにも侵略の危機が迫ろうとしていた。時の保守党チェンバレン首相は軍備増強を怠り、ドイツに対する弱腰政策を批判され退陣。フランスのダンケルク海岸で英仏軍が包囲され窮地に追い込まれる中、“政界一の嫌われ者”チャーチルが首相に就任する。
 戦時挙国一致内閣には、同じ保守党でありながらイタリアからのドイツとの和平交渉の仲介申し入れに固執するハリファックスがいた。イギリスにとって戦況不利な状況での和平交渉はヒトラーの軍門に下ること。首相就任からダンケルクの戦いまでの27日間のチャーチルの苦悩を描いている。
 ヨーロッパではナチスドイツを残虐な悪として描いた映画が多く作られてきていたが、最近では自国をナチスドイツの被害者としてだけではなく、自国も止む無くあるいは積極的にナチス政権に加担してきたと自国の歴史を振り返る映画が増えてきているように思う。そういう意味ではナチスドイツに屈服することなく抵抗を続けたイギリスは、他のヨーロッパの国々とは少し違った立ち位置にいるのかもしれない。もちろんナチスドイツに対してイギリスだけが孤軍奮闘したわけではなく、ヨーロッパ各地の反ナチス抵抗運動に参加した多くの人たちの働きがあってこその歴史である。
 チャーチルが政治家として優れているのか疑問に思う。海軍大臣時代の作戦失敗や、保守党から自由党へ、再び保守党へと鞍替え。深謀遠慮ではない思いつき、政敵が右と言えば左というへそ曲がり的な行動で政界を生きてきたように思う。だが、ナチスドイツへの従属をきっぱりと拒否したことは評価したいと思う。和平交渉か徹底抗戦か悩むチャーチルが、彼を「何を考えているのか分からない。次に何を言い出すのかと怖かった」という国王ジョージ6世のすすめで、ロンドン市民の声を聞いて徹底抗戦を決意するシーンがある。監督は国家の進路を決めるのは国王や政治家ではなく国民だと言いたかったのだろうか。
 第90回アカデミー賞で本作の主役チャーチルを演じたゲイリー・オールドマンが主演男優賞を、そして日本人として初めて京都出身の辻一弘さんがメイクアップ&ヘイスタイリング賞を受賞した。なんと辻さんはゲイリー・オールドマンのご近所さんで、映画から引退して彫刻をしていた辻さんに特殊メイクを依頼したという。でも、でも、あまりにそっくり過ぎてゲイリー・オールドマンを感じられなかったのは残念な気もする。(久)

原題:DARKEST HOUR
監督:ジョー・ライト
脚本:アンソニー・マクカーテン
撮影:ブリュノ・デルボネル
出演:ゲイリー・オールドマン、クリスティン・スコット・トーマス、リリー・ジェームズ、スティーヴン・ディレイン、ロナルド・ピックアップ、ベン・メンデルソーン