シネマ見どころ

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ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書(2017年アメリカ映画)

2018年04月11日 | 映画の感想・批評

 
アメリカがベトナム戦争で泥沼にはまっていた頃、その前後の大統領を含め、軍の上層部が、事実とは全く違う戦争状況を国民に公表していた。それは、戦争で犠牲になる人々のことよりも、自分達のプライドを保つ為だけに動いていたという衝撃の事実を、軍の内部関係者が新聞社に暴露する実話である。
 真っ先に記事を出したのは、ニューヨーク・タイムズ社。但し、舞台は原題のワシントン・ポスト社である。新聞社と新聞記者の使命として、真実を公表することを優先するか、真実を公表することで、反逆罪で新聞社を潰してしまうリスクを避ける(=社員を守る)のか、生きていく上で、何を優先させるのか、会社や社員が自らの存在意義を問う投げかけが、次々と展開される。原題の「The Post 」は、ワシントン・ポスト社とポジションのポストの引掛けかと思ってしまう程、1本の映画に出来るような会社社会のテーマも絡ませて、ストーリーに重層感があった。夫の急逝により、何の準備も無く経営者になったメリル・ストリープ扮する主人公が、経営者の葛藤に悩まされるシーンは殺気迫る迫力があり、経営者は孤独なのだと改めて感じた。
 スピルバーグのインタビュー記事で読んだが、トランプ大統領の誕生で、編集中だった映画の製作を一旦止めて、こちらの製作準備に入ったそうだ。非常に短時間で製作された訳だが、全くそういった印象は無い。これは、スピルバーグにしか出来ないのではないか。まさに、映画を撮る為に生まれてきたスピルバーグである。21回目のアカデミー賞ノミネートとなったメリル・ストリープの経営者として、大きな決断を下す際の悩ましい姿、そして、下した後の揺るぎない自信と覚悟の表情を引き出す演技演出、今の時代を捉える嗅覚と観客が観たいと思っている題材に取り上げる力、脇役陣の登場やセリフ、そして、本編では、ラストには、ウォーターゲート事件に繋げる憎い演出で、完璧としか言いようが無い。終始、スピルバーグらしさが溢れる映画であった。
(kenya)

原題:「The Post」
監督:スティーブン・スピルバーグ
脚本:リズ・ハンナ、ジョシュ・シンガー
撮影:ヤヌス・カミンスキー
出演:メリル・ストリープ、トム・ハンクス、サラ・ポールソン、ボブ・オデンカーク、トレイシー・レッツ、ブラッドリー・ウィットフォード、ブルース・グリーンウッド、マシュー・リス、アリソン・ブリー他