第2次世界大戦下、ナチスに殺されたヨーロッパのユダヤ人は約600万人と言われている。そのうちドイツ国籍を持っていたドイツ系ユダヤ人は17万人だった。
1941年10月、ユダヤ人のドイツ国内から海外への移住が禁止され、「東」への移送(実態は全財産を没収され、死が待つ絶滅収容所に送られることだった)が開始された。1943年2月、強制労働のためにベルリンに残されていたユダヤ人が逮捕され、6月19日ナチスの宣伝相ゲッペルスは首都ベルリンからユダヤ人を一掃したと宣言した。しかし、実際には7000人ものユダヤ人が収容所送りを免れてベルリンに潜伏し、1500人が終戦まで生き延びた。
クラウス・レーフレ監督は別のドキュメンタリー番組を製作した時に、ベルリン出身の一人のユダヤ人女性が偽の身分証明書で隠れていたということを知り、他にも「違法」に隠れていたユダヤ人ベルリン市民がいたのではないかと調べ始めた。そして綿密な調査をし、その中から潜伏開始時に16歳から20歳だった4人の若者の興味深いストーリーを選び出した。数多くのドキュメンタリーを手がけてきた監督らしく、ドラマの主人公たちのモデルとなった生還者4人へのインタビューと、戦時下のベルリンの様子を収めた記録映像を挿入して、感動のドキュメンタリー・ドラマに信憑性を与えている。
20歳だったツィオマは、出征をひかえたドイツ人兵士になりすまし、市内の空室を転々とし、ユダヤ人の命を救うための身分証偽装を行っていた。20歳だったルートは戦争未亡人を装い、ドイツ国防軍将校邸のメイドとして働いた。両親を亡くした17歳のハンニは、彼女に思いを寄せる戦地行きを控えた青年の母親に匿われた。16歳のオイゲンは匿われていた家族のもとに、テレージエンシュタット収容所から脱走して来た男にユダヤ人虐殺の実態を聞き、反ナチのビラ作りを手伝った。彼らは、ユダヤ人であることがばれないか、ゲシュタポに逮捕されないか、不安を抱えながら必死に生き延びたのだ。
それぞれの状況は違っていたが、4人の話に共通するのは、ユダヤ人同士の強い絆は当然だが、彼らを助けてくれた人々の中には反ナチの立場にあった人たちだけでなく、ごく普通の善意のドイツ人たちがいたことだ。すべてのドイツ人がナチに共感していたのではないのだ。強い信念を持っていたわけでもなく、密告されたら自分の命が危なかったかもしれないけれど、とっさに目の前の困っている人を助けたドイツ人がいたことに驚嘆した。(久)
原題:DIE UNSICHTBAREN
監督:クラウス・レーフレ
脚本:クラウス・レーフレ、アレハンドラ・ロペス
撮影:イェルク・ヴィトマー
出演:マックス・マウフ、アリス・ドワイヤー、ルビー・O・フィー、アーロン・アルタラス