シネマ見どころ

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「新聞記者」(2019年 日本映画)

2019年08月07日 | 映画の感想、批評


 まず印象的だったのが内容では無く映画館にポスターの一切が無かった事に驚きました。
併せて情報番組等でも一切取り上げられなかった事。
そこまでの作品をよく上映出来たというか、上映にまでこぎつけたプロデューサー陣には脱帽です。
東京新聞記者、望月衣塑子さんによる「第23回平和・協同ジャーナリスト基金賞」の奨励賞を受賞した同名ベストセラーが原案の作品です。河村光庸プロデューサーが藤井直人監督を説得し、この映画のオファーが来るまで新聞を読んだことがなかったという。「なぜ新聞を読まなかったのか。なぜ政治が嫌いだったのか」と自分自身を掘り下げるようにこの映画に挑んだ。という。
そんな監督が決して難しい内容にせず、政治に全く無知な人が見ても分かり易いエンタメ作品に仕上げたのは凄いです。(良い脚本と良い役者と少しの演出があればそれで充分)そんな言葉がありますが、正にそんな作品だと思います。
内容的には不倫スキャンダルから始まって、レイプ事件に移って、最終的には政府が医療系大学という建前の上に、細菌兵器を作る為の軍事系大学設立に関する話です。
実際リアルな政治を知らない人間として1番印象に残ったのは田中哲司さん演じる多田の「この国の民主主義はあくまで形だけでいいんだよ」この台詞ですかね。個人的にはよくこの台詞を使ったな。そう思いましたね。この台詞だけでもお蔵入りしてもおかしくは無い台詞に匹敵するのでは…個人的にはそう感じる程インパクトのある台詞です。
役者さんに関しては、そうそうたる役者陣の中で主演、吉岡を演じるシム・ウンギョンさん。最初は「誰?この女優さん」そう思いました。「日本の女優さんかな?」と思ったのですが韓国の女優さんなんですね。「日本の女優さんをなぜ使わないんだろう?」そう思いました。作風柄事務所がOKを出さなかった。そんな話も聞きました。ではなぜ他の役者さんは出たの?単純に監督、プロデューサーが日本の役者ではイメージが湧かなかったんでは無いのかな?そうも思いました。松坂桃李さん頑張っていたと思います。1番「凄い芝居するな」そう思ったシーンが都築役演じる高橋努さんとの食堂のシーンの目での芝居。松坂さんの役者としての力量を見た瞬間でした。何気にこの作品のキーマンは多田演じる田中哲司さんですかね。杉原演じる松坂さんに圧をかける為の一言の台詞の重み。多田の眼光の鋭さ。それほど出番は多くは無かったですが、脇役としては流石の演技です。あとは編集長陣野役の北村有起哉さん、渋いですね。あとは倉持役の岡山天音さん、何気ない役なんですがこれからが楽しみな役者だと思いました。
気になるシーンとしては内閣情報調査室、SNSを通して政府に有利に働く内容を拡散させる部署。本当にこんな部署があるのか?そう思ってしまった。その反面田中哲司さん演じる多田が「(投稿する内容か)嘘か本当かは国民が決める」何気ない台詞ですが、要はその内容がたとえガセだろうが何だろうが俺達には関係無い。決めるのは国民。本当にそんな部署があるのかどうかはわかりませんが、それに似た部門があるとしたら…。
少なからず日本政府からは煙たい作品ではあったように思います。
情報操作の面もそうでしょうし、某学校設立問題に関してもそうなんでしょうし。
何をおいても1番ショックだったのは今回の選挙で「この作品がどこまで何かを変えられるんだろうか?」そう思っていたのですが、ほぼ何も変わらない事が個人的には1番ショックでした。(CHIDU)

原案:望月衣塑子
監督:藤井直人
撮影:今村圭佑
脚本:詩森ろば、高石明彦、藤井道人
出演:松坂桃李、シム・ウンギョン、本田翼、田中哲司、北村有起哉、西田尚美、高橋和也他