シネマ見どころ

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「アルキメデスの大戦」(2019年、日本)

2019年08月14日 | 映画の感想、批評


戦闘シーンをメインにしない、まったく新しい切り口の戦争映画。現在も連載中のコミックが原作というが、まったくの予備知識なしで鑑賞。
海軍内部の権力抗争に巻き込まれた若き天才数学者、櫂直(菅田将暉)。
「巨大戦艦を作って、戦力を誇示すれば必ずアメリカと無謀な戦争をしようとする、それを回避するために戦艦建造を阻止したい」
一見正当な理屈に聞こえるけれど、空母建設派の山本五十六にしても結局は軍人なので、戦争そのものの回避を思ってなどいない。どこまでも戦艦推進派との権力争いに櫂の頭脳を利用したに過ぎない。
誰しもアメリカと戦争して勝てるとは思っていないのに突き進んだのは誰の責任なのか!後半の見せどころ、田中泯の語る「日本の依り代たる戦艦大和」も酔わせる言葉だが、どこかむなしい。軍のトップたちはやっぱり戦争を引き起こした当事者たちなのだ。

誰のための戦争。造船業社などなど、軍需産業を儲けさせるため。だから、見積もりの低さも、いくつもの船の建造を抱き合わせての偽造。それを主人公の数学者櫂(菅田将暉)がスーパーコンピューター並みの頭脳と粘り強さでもって、解き明かしていく。そのカタルシスに思わず酔ってしまう

冒頭の戦艦大和の沈没シーンはタイタニックばりの迫力と脅威があった。虫けらのように捨てられていく兵士の命。対して墜落した飛行兵をすばやく「回収」していくアメリカの飛行機。一瞬のことながら、彼我の違いをまざまざと描いていた。

私事ながら、来週、海軍の特攻隊『回天』の生き残りである恩師に出会う予定。生々しい体験を著書で読んだし、何度かじかに聞かせてもらった。「今のうちに!」聞き取りができるのがおそらく最後の世代かと。そしてきちんと伝える責務があることを自覚はしているのだが。恩師がこの作品をどう見るか、とても怖くて聞けないだろうな。浅い見方しかできていない不肖の教え子なもので。

「永遠のゼロ」も観たが、絶賛する気になれず、不消化な気分が残った。
本作もどこか、「感動するだけではあかんやろ」な気持ちが渦巻いている。
戦争の体験者がどんどん減っていく時代、しっかり検証しないと。後世に事実を伝えないと。

もう一つ、私事ながら。私の実兄も数学者である。天才ではないだろうけれど、彼も紙に向かってひたすら鉛筆を動かしている。下手すると車の運転中にも数式が浮かんで、危ないことになったらしい。どういう頭の構造をしているのか、摩訶不思議な存在ではある。幼いころから、彼は別世界の住民として見てきた。その反動で、「妹は極めて常識的世界に生きている」と自画自賛している。
主人公櫂の破天荒ぶりは、料亭での乱痴気騒ぎ、家庭教師の教え子の美しさを計測することで讃えようとするなどなどで描かれている。
柄本佑の変化、協力ぶりが微笑ましく、櫂の本来の人間性も表していたかと思う。

菅田将暉の天才数学者ぶりが堂に入っている。あれだけの数式を黒板に書きながら長台詞をとうとうと。癖のあるベテラン男優たちを相手に一歩も譲らない!ますます先が楽しみな俳優さん。田中泯の重厚感も素晴らしい。橋爪功の俗っぽさもうまい。


戦争映画をどう見るのか、問われているのは私たち自身。先の「新聞記者」も、フィクションなのだけれど、そこに描かれていることは決して滑稽なありえない話でなく、何を読み取るのか。
生物兵器を作るための獣医大学!ほんまやろうか・・・・・なるほど、だからあれほど熱心に忖度もし、お友達予算をばらまいた!
すべては秘密保護法の中で隠されたまま。
あの海軍の密室の会議と、令和になった現代も何も変わらない気がする。

嘘か真か、映画をきっかけに考える時間を持つのも大事かと思う、明日は終戦記念日。戦争はいかなる理由があっても、絶対にしてはいけないし、させてはいけない!国民の力を侮らせてはいけない。
「新聞記者」を見た人が大勢いたはずなのに、選挙は何も変わらなかった!
「いえ、そうではないと私は国民の良識に期待を持っています」
・・・そう思わないと、やってられんわ! なのもありかな。

ご興味のおありの方は是非、一度お読みくださいませ
『特攻 自殺兵器となった学徒兵兄弟の証言』岩井忠正、岩井忠熊 共著  新日本出版社 2002年
『永遠のゼロを検証する』秦重雄、家長知史 共著、岩井忠熊(インタビュー) 日本機関紙出版センター刊行 2015年

(アロママ)

監督、脚本、VFX:山崎貴
原作:三田紀房 「アルキメデスの大戦」ヤングマガジン連載中
主演:菅田将暉、柄本佑、浜辺美波、國村隼、橋爪功、田中泯、舘ひろしほか