シネマ見どころ

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「グレタ」(2018年 アイルランド、アメリカ)

2019年11月20日 | 映画の感想・批評


 「クライング・ゲーム」「マイケル・コリンズ」などの監督・脚本を担当したニール・ジョーダンの最新サイコスリラー映画。
 ニューヨークの高級レストランのウェイトレス・フランシスは、仕事帰りの地下鉄で誰かが置き忘れたバッグを見つけるが、遺失物窓口が閉まっていたため自宅に持ち帰る。そしてバッグに入っていたIDカードの住所に届けることにする。バッグの持ち主グレタは、早くに夫を亡くし、娘のニコラは遠く離れたパリで暮らしているという孤独な未亡人。母親を亡くしたばかりのフランシスは、グレタに母親を重ね、2人は母と娘のように年の離れた友情を育み始める。
 映画の出だしはスリラーなど微塵も感じさせない。娘と離れて暮らす母親と、母を亡くした悲しみから抜け出せない若い女性が、お互いの寂しさを埋めるように心を寄せていく様子が微笑ましく描かれていく。ルームメイトのエリカはそんな2人を「気持ち悪い」と心配するのだが、フランシスは気にしない。
 ある日グレタの自宅に招かれたフランシスは、クローゼットの中に女性の名前のメモを貼った同じバッグが、いくつも仕舞われているのを見つける。このあたりから映画の様相が変わっていく。母親のような愛情で寂しさを癒してくれる、この優しいグレタという女性の狙いは一体何なのか?フランシスのグレタに対する疑惑と不快感が膨んでいく。2人の間に流れていたほのぼのとした温かさが、じわじわ寒々とした恐怖へと変化していく。
 グレタがピアノで弾くリストの「愛の夢」も印象的だ。はじめは甘く楽しかった思い出を奏でていたのが、後半はフランシスに苦痛を与える調べになっていく。グレタの過去、娘のニコラとの壊れてしまった関係に起因する狂気が、離れていこうとする若くて従順な女性に執着するあまり、制御の効かない行動へとエスカレートしていく。映画の出だしからは想像もつかないラストが待っている。
 孤独で寂しい女性から、ストーカー、さらにサイコパスへと変貌していくグレタを、フランスの巨匠たちの作品への出演だけでなく、世界各国の監督の話題作への出演が続くイザベル・ユペールが演じている。純真で内気なフランシス役のクロエ・グレース・モレッツと、対照的にしっかり者のエリカ役のマイカ・モンローのハリウッドの若手女優2人が、フランスの大女優の胸を借りて競演しているところも見どころだ。(久)

原題:GRETA
監督:ニール・ジョーダン
脚本:レイ・ライト、ニール・ジョーダン
撮影:シーマス・マッガーヴェイ
出演:イザベル・ユペール、クロエ・グレース・モレッツ、マイカ・モンロー、コルム・フィオール、スティーヴン・レイ、ゾウイ・アシュトン、サディアス・ダニエルズ、ジェフ・ヒラー