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「宇宙でいちばんあかるい屋根」(2020年、日本)

2020年09月16日 | 映画の感想・批評
今一番注目の若手女優、清原果耶の初主演。何作もあるのにと思ったが、意外にも本作が主役は初とか。
また、昨年の日本アカデミー賞を総なめにした「新聞記者」の藤井道人監督作品とあって、楽しみにしていた。
藤居監督作品は「新聞記者」しか知らないので、こちらも初々しい青春ファンタジー物もできるのかと、ふり幅の大きさに驚かされた。

おとなしい性格のヒロイン、つばめ(清原果耶)は14歳の中学3年生。隣家の幼なじみの大学生,亨(伊藤健太郎)に淡い恋心を抱いている。両親と3人暮らしだが、血のつながらない母が妊娠したことで、ぼんやりながら疎外感を感じている。実母に会いたくなって、実母の個展をそっと見に行くが、新しい家庭で幸せそうな姿を見て、名乗りも上げられず、深く傷つき、家に帰りつき、両親にあたってしまう。その時の父親の対応は見習いたい。
彼女のお気に入りの場所は書道教室の屋上。そこにある日、キックボードが置いてあるのを見つけ、乗っていると、派手な格好の老婆(桃井かおり)が「勝手にさわるな!」と現れる。「星ばあ」と呼ぶことになったその老女は「年くったらなんだってできるようになるもんだ!」と覚えたてのキックボードを器用に乗り回してはしゃぎまわる。こういうシーンは桃井かおりの若いころを彷彿とさせて、こちらも同年代の「老女」とよばれる身になってきたので、懐かしさとあいまって、「なんだってできるようになる」にはおもわずうなづいてしまう。キックボードには乗れないけど。

つばめは試しに「隣の郵便受けに大学生のお兄ちゃんにラブレターを入れちゃった、取り返したい!」とお願いすると、星ばあは叶えてくれる。そんなやり取りの中で、つばめは星ばあには正直な気持ちを打ち明けられるようになるが、星ばあはつばめの夢の中の存在なのか?実在するのか?

クラゲの水族館のシーンなど、ファンタジー感にあふれている。
思春期真っ盛りのしんどい年頃に、どんな人が寄り添ってくれるかで、かるがると乗り越えていけるものかもしれない。
押しつけがましくなく、つばめを振り回しながらも飄々と生き抜く星ばあは現代の老人の良いお手本なのかも。巻き込まれるのは大変だけど。

いろいろと悩み多きお年頃の少女の繊細な揺れる気持ちを清原は見事に演じきっている。自身は既にキャリアも十分な18歳だが、十分に中学生の女の子の表情豊かな姿を、セリフのないときにこそ、表現している。泣きの演技が素晴らしい。激することなく、静かに静かにためていく。NHK朝ドラの「なつぞら」でも主役を霞ませる勢いだったっけ。「透明なゆりかご」は本当に見ごたえがあった。
「ひとつひとつの屋根の下で、いろんな家族が生きている、愛情もって子供を守っている」ことをつばめは知ることができた。
清原果耶の瑞々しさに、将来がますます楽しみ。
久しぶりに大画面で桃井かおりの健在ぶりを見られたのもうれしい。
また、藤井監督のこれまでの作品も興味がわいてきた。この監督さんもこれから注目したい。
(アロママ)

監督、脚本:藤井道人
撮影:上野千蔵
原作:野中ともそ
主演:清原果耶、桃井かおり、伊藤健太郎、吉岡秀隆、坂井真紀ほか