シネマ見どころ

映画のおもしろさを広くみなさんに知って頂き、少しでも多くの方々に映画館へ足を運んで頂こうという趣旨で立ち上げました。

「海辺の映画館ーキネマの玉手箱」 (2020年 日本映画)

2020年09月22日 | 映画の感想・批評


 大林ワールドへようこそ!!それもついに最後となってしまった、奇想天外、唯一無二の世界へ!「映画は未来を変えられる!!」大林宣彦監督が次なる世代に託したメッセージは、かくも壮大で力強いものであった。
 大林監督の故郷・尾道の海辺にある唯一の映画館「瀬戸内キネマ」が閉館の日を迎えた。最終日は「日本の戦争映画大特集」のオールナイト興行(懐かしい!)。そこで映画を見ていた現代の3人の若者が、突然劇場を襲った稲妻の閃光に包まれ、スクリーンの中にタイムリープする。戊辰戦争、日中戦争、沖縄戦、そして原爆投下前夜の広島と、3人は映画と戦争の歴史の中にさ迷い込み、色々な時代や空気の中で様々な途方もない体験を重ね、人として賢く美しく成長していく。
 3人が守りたいと願う少女には本作が映画初出演となる吉田玲が、若者には厚木拓郎、細山田隆人、細田善彦というこれからが楽しみな役者たちが演じ、次の世代に夢を託す監督の思いがひしひしと伝わってくる。更に大林組初参加の成海璃子、前作に続く出演となる山崎紘菜、物語の軸となる移動劇団「桜隊」の看板女優を常盤貴子が演じ、3人の若者と深く関わっていく。そして無声映画、トーキー、アクション、ミュージカル、ファンタジー、ラブ&ロマンスと映画の楽しさ、おもしろさを伝える様々な表現が出現する中で、大林監督ならではのノスタルジックさや、デビュー作「HOUSE/ハウス」を思い出させる恐怖感もしっかり味わえるという、あれもこれもいっぱい詰め込まれた、まさに映画の玉手箱なのだ。そこにこれでもかという消化しきれないほどの俳優たちが集まった。みんな大林監督ファンにちがいない。どこでどのような役を演じているか、それを見つけ出すのもまた楽しみの一つだ。
 これが最後の作品になるかもしれないという覚悟が監督の胸中にあったのだろうか。映画のすばらしさを伝えるとともに、その発展の背後には二つの大きな戦争があったこと、忍び寄る戦争の気配や無惨な殺戮の跡もしっかり記憶されており、70年余の平和な時代を経て、新しき戦前を感じつつある現代に警鐘を鳴らしているとも感じられるのだ。
 映画大好き!戦争大嫌い!!この世に最後に残しておきたかった映画で、大林監督の「幸せな世界になってほしい」という願いは、きっと多くの人に十分伝わったことだろう。

 折しも、ロケーション抜群の我が滋賀の“湖辺の映画館”「大津アレックスシネマ」が新型コロナウィルスの影響を受け、10月よりしばらく休館になるというニュースが入った。最後のプログラムにこの作品を選ばれたのも、映画が大好きなスタッフのみなさんの気持ちの表れであろう。どうか1日でも早く再開できますように。
 (HIRO)

監督:大林宣彦
脚本:大林宣彦、内藤忠司、小中和哉
撮影:三本木久城
出演:厚木拓郎、細山田隆人、細田善彦、吉田玲、成海璃子、山崎紘菜、常盤貴子、浅野忠信、犬塚弘、稲垣吾郎、柄本時生、尾美としのり、片岡鶴太郎、白石加代子、小林稔侍、笹野高史、高橋幸宏、武田鉄矢、中江有里、根岸季衣、満島真之介、村田雄浩、渡辺えり、渡辺裕之 etc.