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「おらおらでひとりいぐも」 (2020年 日本映画)

2020年11月18日 | 映画の感想・批評


 1年延期となった東京オリンピック、バッハIOC会長が来日し、菅首相と会談。開催に向けての強い決意が示されたが、果たして実現なるか?!
 話は変わって1964年、日本で初めてオリンピックが開催された年、20歳の桃子は気の向かないお見合いの席から抜け出し、身一つで岩手から上京してきた。あれから55年、結婚して子どももでき、幸せな日々を過ごした後、やっと夫婦水入らずの生活ができると思っていた矢先に突然夫に先立たれてしまい、今は孤独な一人暮らし。図書館で本を借り、病院へ行き、地球46億年の歴史ノートを作る。こんな孤独な日常がこれから先も続くのかと思っていると、突如桃子の“心の声”が「寂しさたち」という分身となって現れる。
 63歳で作家デビューを果たし、本作で芥川賞と文藝賞をW受賞した若竹千佐子の同名小説を「モリのいる場所」の沖田修一監督が映画化。沖田監督、今回も高齢者にはとことん優しい。ちなみに若竹千佐子は1954年(私と同年)岩手県遠野市生まれ。桃子と同じように上京して二人の子どもを育てたが、55歳で夫を亡くし、悲しみに暮れて、自宅に籠もる日々を送っていた。見かねた息子に勧められた小説講座に通い、主婦業の傍ら本作を執筆したそうだから、かなり自伝的な部分もありそうだ。題名の「おらおらでひとりいぐも」は同郷出身の宮沢賢治の詩「永訣の朝」の一節からきているそうで、教員志望だった若竹氏らしい選択が何とも微笑ましく、「おらは一人で生きていっても大丈夫だ」というメッセージが、方言だからこそより深く伝わってくる。
 桃子を演じるのは15年ぶりの主演となる田中裕子。実年齢よりも10歳年上の設定だが、桃子になりきった姿に「あの姿はまさに私」と共感できる方も多いことだろう。原作では「柔毛突起」と表現される桃子の心の声を「寂しさ1.2.3」、暗い気持ちを「どうせ」等と擬人化したのもユニーク。寂しさも一人じゃなくていっぱいいた方が賑やかでいいし、どの寂しさたちもユーモラスなところがまた救われる。
 一人だけれども一人じゃない。地球が誕生して46億年の歴史と比べてみれば、一人の人間の歴史なんてたかが100年。短い間だけれど、楽しかった思い出といっぱいの寂しさに支えられながら、最後に得られるのは圧倒的な自由!!これって、幸せなのかも。それを納得しつつ、「私は私らしく一人で生きていく」のだ。
 (HIRO)

監督:沖田修一
脚本:沖田修一
撮影:近藤龍人
原作:若竹千佐子
出演:田中裕子、蒼井優、東出昌大、濱田岳、青木崇高、宮藤官九郎、田畑智子、鷲尾真知子

<パンフレットの表紙>