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シネマ見どころ

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「茜色に焼かれる」(2021年 日本映画)

2021年06月23日 | 映画の感想・批評
 シングルマザーの田中良子(尾野真千子)は、中学生になる息子の純平(和田庵)と市営住宅で暮らしている。7年前に夫(オダギリジョー)を不慮の交通事故で亡くした。花屋のパートと風俗で働いている。風俗の仕事をしていることで、息子はいじめに合っているが、それを学校に訴えても何もしてくれない。久し振りに会った同級生に振られる。パート職場で言い掛かりを付けられ、辞めさせられる。そんな事が次々と起こる中で、良子はどう生きていくのか・・・。
 良子は「まあ、頑張りましょ」が口癖である。明るく言い放つのではなく、自分を納得させるようにため息交じりに・・・。純平から、交通事故の加害者(事故当時、すでに老人だった)の葬式に行ったことを責められても、「顔を忘れたくなかったから」と言って、「まあ、頑張りましょ」と呟くのである。前向きでもなく、不遇な境遇を打破する力を振り払うことでもなく。因みに、生活はとても困窮しているのに、事故の賠償金は受け取っていない。何故か。加害者が謝っていないから。良子は一つの芯を持って生きているのである。とても、「強い人」「生きる力のある人」だと思う。口癖から想像するに、良子から見て、その人が頑張っているかいないかの基準があるのだろうか。そして、頑張っている人が頑張れない状況に陥ったことで、良子の気持ちにアウトプットする力が溢れ、狂気に満ちた表情でラストとなる。
 各俳優の演技も見ものだった。尾野真千子と片山友希(風俗店の同僚)との居酒屋での会話シーンは、真に迫っていて、怖かった。所々にカットが入る貧乏ゆすりの演出も良い。和田庵(純平)も良かった。永瀬正敏(風俗店の店長)も尾野真千子と同級生との争いを収めるシーンはスカッとした。ビデオ撮影シーンも良かった。
 劇中にコロナの話題がたくさん出てくるのは、私は初めてだったかも。それだけコロナが長引いてきているということか。コロナ前の状況に戻ってほしいが、全く同じは難しいと思うので、コロナと一緒に生きていくしかない。それも重ね合わせた作品のようにも感じた。尾野真千子が舞台挨拶時に、公開出来ることが嬉しいと涙したことをネットニュースで見た。尾野真千子も強い人なのだろうな。
(kenya)

監督・脚本:石井裕也
撮影:鎌苅洋一
出演:尾野真千子、和田庵、片山友希、オダギリジョー、永瀬正敏