成人コミック誌「モーニング」に現在も連載中という人気コミックが2019年にドラマ化され、大好評となり、2020年には正月スペシャル版も放映された。視聴者の要望も高く、満を持して映画化されたのが本作品。最近は全くコミックを読まなくなったので、ドラマが話題になっていた頃からこの世界観を知ったので、劇場版もとても楽しみにしていた。
とかく、劇場版となると余計なシーンが盛り込まれて、その世界感が崩されてしまう事も多々ある。男性同士のカップル、恋愛観を描いたのでは先に話題になった「おっさんずラブ」、あちらのドタバタ感も確かに面白かったが、本作は本当に心地よい時間と空間、そして味覚までもがくすぐられる、五感を大いに刺激してくれた。
いわく、お腹がすく映画!
内野聖陽の乙女感が素晴らしい。直前までの朝ドラマ「おかえりモネ」の好感度満載の父親像も楽しかったが、いったいどれだけの引き出しをこの人は持っているのだろうと、変幻自在な役への憑依ぶりに圧倒される。ただただ、可愛い!今の時代、とかく女性らしさとか男性らしさという言葉は口にしにくくもあるが、本当に見習いたくなるくらい。
中年男性カップル、弁護士の史朗、通称シロさん(西島秀俊)と美容師のケンジ(内野聖陽)。シロさんがケンジの誕生日祝いのために企画してくれた京都旅行。東京を離れて堂々と一緒に歩ける、ケンジはそれだけでも嬉しくて仕方がない。でも、楽しい旅行のはずが「シロさん、優しすぎる、何か隠してる!病気なの?死んじゃうの?」とあらぬ妄想にとらわれてしまう。
お互いを思いやるあまり、本音を言い出しにくくなることはよくあること。
「息子がゲイのカップルであることを両親が、特に母親がどう思っているのか」
受け入れようとしても受け入れがたい事実として、史朗の家族が苦悩してきたことがドラマ版でも描かれてきて、いったんは受け入れたと思っていたら・・・・・
悩んだ末に出した結論、梶芽衣子が演ずる母親の言葉が深い。「あなたの家族を大事にしてね」
老親のこと、自らの老いのこと、ここに描かれるテーマは何処にでもあるごくごく普通の事。
それがたまたまゲイのカップルであるというだけで、特別なことは何もない。
誰かのために美味しいものを作ってあげる、喜んでくれる姿を思い起こしながら作られる食事のすばらしさ。一緒に「これ、おいしい!」と感動しながら食事ができること、それが一番の幸せであることがしみじみと画面から伝わってくる。
ドラマ版ではほとんど描かれなかったかと思うが、シロさんの弁護士業の様子が少し触れられていた。ホームレスの男性が犯したという殺人事件の裁判員裁判。「この役者さん、誰だったっけ!」そこに気を取られてるうちに、何となくあやふやな結論で終わってしまったようで、本作品で唯一残念だったところ。
心が疲れているとき、ぜひ見てみてください。
隣にいる人を大事にしよう、一緒に美味しいもの作って食べようと思えます。
ほのぼのとした、温かい気持ちになれます。
そして、やっぱり京都に行きたくなる!私には懐かしい南禅寺、水路閣!
コロナ禍よ、早く静まってほしい!安心して過ごせる年になりますように、祈ります。
(アロママ)
監督:中江和仁
脚本:安達奈緒子
原作:よしながふみ
撮影:柴崎幸三
出演:西島秀俊、内野聖陽、梶芽衣子、田山涼成