福井での仕事が終わり、新幹線で東京へ帰ってきた。
北陸新幹線がうんちゃらかんちゃら言っているけれど、
どういうことなのかよくわかっていない。
福井に滞在してわかったのは、あまり好評ではないということ。
便利になったんだか、不便になったんだか。
福井駅でチケットを買い、大宮まで3時間のはくたかに乗り込んだ。
GWということもあってか指定席は満席で、しょうがなく自由席をとった。
ここ最近気づいたんだけど、タイミングによっては自由席の方が悠々自適に座れるかもしれない。
それに不思議と旅感が出てワクワクする。
福井駅から乗ったはくたかの2号車はガラガラで、私は真ん中あたりの2列シートの窓側に座った。
時間を長く感じるのが嫌なので、移動時間が長いときは寝るか何かに集中していたい。
その環境にぴったりなのがオーディブルだ。
話題の小説から古い書物まで聞き放題。
昨日は川上未映子の『黄色い家』を聞いて過ごした。
目をつむっていると隣に人が座ったのがわかった。
いつの間にか自由席もほとんど埋まっているようだった。
丁度妙高高原を過ぎたところで、窓の外を見ると切り立った白い山々が遠くの方に見えた。
視線を正面に戻すと左から強い視線を感じた。
ちらっと見ると隣に座ったおじさんがぐいっとこちらを覗き込んでいる。
会釈するとあちらも会釈して、それでも何か言いたげなのでイヤホンをとった。
「長野で降ります。」
気を使ってくれたのかな。
「私は大宮なので気にしないでください。」
「長野でおりて武蔵・・・」
何かもごもご言っている。
「大丈夫ですよ、本当にお気になさらず。」
と言って会話を切り上げてまたイヤホンを耳につけた。
それからしばらく走って、まだこちらを伺っている様子だったのでまたイヤホンを外した。
女性の隣に座るだけでも気を使う男性が多いこのご時世に珍しいおじさんもいたもんだ。
シートにおさまりきっていない大きな体を丸めて、両手で時刻表を開いている。
白髪の混じった髪はボサボサで、メガネの奥にはつぶらな瞳が光っていた。
年は50代半ばあたりかな。
「もうすぐ長野なので、降ります。」
「そうですか、電車がお好きなんですか。」
会話を続けてみた。
「うん、電車が好きでGWはこうやって電車に乗るんだ。
今日も大阪から来ていて、このあと長野で降りてー」云々マシンガントークが止まらない。
GWや正月休みは全国の電車に乗るのが楽しみだけど、
最近のお盆休みは暑すぎてそれができないのだとか。
「自分は埼玉の人?」
「いえ、大宮で乗り換えて東京です。西東京。」
私の住んでいる区を聞いてきて、そこにある電車について事細かく教えてくれた。
本当に電車が好きでそれを誰かに話したくてしょうがないという感じだ。
時刻表をペラペラめくってうずうずしている姿が可愛かった。
こんな人がいるんだなと少し感動した。
私の小さい世界の常識とか空気とか壊してくれる枠の外の人。
「じゃあこれからまた電車に乗って、へぇ楽しそうですね。
いい1日を過ごしてくださいね。」
「うん!」
英語でよく聞く”Have a good day!” がまさか自分の口から出るとはね。
席を立ち離れていくときに振り返って大きな声で「行ってきます!」
って言われたので人目憚らず「行ってらっしゃい」と言った。
なんて面白い人なんだろう。
きっと誰彼構わず話しかけて回っているんだろうな。
会うと幸せになれる妖精にでも遭遇したような清涼感だ。
そのあと入れ替わりで隣に座った男の愛想のないこと。
いや、それが普通なんだよね。
いやはや。