1月15日にデビッド・リンチが亡くなった。
映画Youtubeチャンネル「ブラックホール」で視聴者のメッセージを聞いていたらホロリ涙が落ちていた。
映画が人生に深く関わってくる。
映画とともにその時代を生きていく。
そんな人がたくさんいる事に感動したし、デビッド・リンチの大きさを再認識した。
今年はデビッド・リンチ追悼上映キャンペーンを一人で開催する予定だ。
2024年は私にとって映画豊作の1年だった。
それはヨルゴス・ランティモス監督作『哀れなるものたち』の衝撃からはじまった。
見終わって映画館を出ると雨が降っていた。
傘を持っていなかったのに気にならなかった。
あんなに晴れやかな気持ちで映画館を後にするのは珍しく、そのまま走り出したかったくらいだ。
あるいは『雨に唄えば』みたいに踊ってみてもいいかもしれない。
歩道橋の透明の柵に水滴がたくさんついて、町のネオンがキラキラ反射していた。
幸福の余韻が溢れ、まっすぐ帰るのはもったいないと思った。
不思議なことに私みたいな人間が他にもたくさんいるという確信があった。
5月になり夫の希望で渋谷Bunkamuraに『悪は存在しない』を観に行った。
前情報を一切入れず観に行ったのがよかったのかもしれない。
映画館はほぼ満席で「こんな渋い映画をわざわざ観に来る人がこんなにいるのか」と驚いた。
後から濱口竜介監督作と知って腑に落ちた。
よくわからないけれど強烈、そんな映画だった。
説明のできなさが逆に現実を担保し、何か嫌なものを突きつけてくる。
確かなのは今まで見たことのない種類の映画だったということ。
人に勧めたけど勧めてよかったのか未だにわからない。
5月の終わり頃、待ちに待った『フュリオサ』が公開され、初日に観に行った。
想像とも期待とも全然違う映画で監督ジョージ・ミラーの凄みに圧倒された。
この時代に劇的なヒーローを描かなかったことに、監督の思慮深さを感じる。
シャーリーズ・セロンのフュリオサが大大大好きな私は正直面食らったが、
同時に前作と同じ快感を求めていた自分の浅はかさにも気づいた。
マックスも出てこない、悪者もよくわからない、誰も助けてくれない、今の世界だ。
2回目でやっと私の映画になってくれた。
7月になり敬愛する藤本タツキ原作の『ルックバック』を観に行った。
アニメの専門的なことはわからないけれど、漫画がそのまま動き出したような映画だった。
各所に藤本リスペクトを感じられ、藤本ファンとして納得の一作だった。
それと同時に藤本タツキの漫画力を再確認することにもなった。
彼の描く構図や絵には感情を動かず力がある。
夏はスターウォーズ三昧だった。
スターウォーズにおいては完全古典派でディズニーの作ったドラマはちっとも興味がなかったのだが、
すでに『マンダロリアン』を観ていた夫の強い推薦でとりあえず見始めた。
本当に心から謝罪します、『マンダロリアン』は最高でした。
話題のあの場面でボロボロ泣いている私を見て、夫が爆笑していた。
あまりにも私がグローグー、グローグー言うので夫が人形をプレゼントしてくれた。
それからというものスターウォーズ関連のドラマと映画を見漁った。
子供のころ持っていたスターウォーズに対するロマンのようなものを思い出せたような気がする。
軽い気持ちで見に行った『フライミートゥーザムーン』も思いの外よかった。
「映画を見ている」という実感が強くあって懐かしかった。
昔の映画を見ている時によく感じる感覚だ。
大げさで楽しくて面白いつくりもの、感。
主演のスカーレット・ヨハンソンが映画に説得力をもたらしているのはいわずもがな。
むしろそれだけといってもいいくらい彼女の魅力が爆発している。
それから秋になり黒沢清監督の『cloud』を観に行った。
2024年三作目の黒沢作品(まさに黒沢YEAR)だけど、他は観れていない。
とにかくこれだけはと観に行ったら大当たり。
最っっっっっ高!
ずっと面白いじゃん、なんだこれ!
私にとっては恐怖と笑いに溢れたどストライク映画。
俳優も登場人物のキャラクターもいいし、映像やロケーションも美しいし、文句のつけようがない。
鑑賞中ずっとワクワクしていたし、ずっとニヤニヤしていた。
こんなにいい映画ばかりでいいんですか。
『ホールドオーバーズ』もよかったな。
たまにヒューマン映画を観るとほっとする。
70年代を丁寧に作り込みその世界に没入させてくれた。
俳優の演技がさりげなくキラリと光っていた。
主役のポール・ジアマッティと映画初出演のドミニク・セッサ、
この映画で助演女優賞をとったダヴァイン・ジョイ・ランドルフ。
ゆっくりじんわりしみてくる。
終わり方がさっぱりしていてよかったな。
『アメリカン・フィクション』も2024年(アカデミー賞的に)映画か。
変な映画だった。
一瞬馬鹿にされた気分になったけれど、
そう思う時点で本質的にはわかっていなかったことに気づかされる。
そういう意味で面白かったし、なかなかない映画体験だった。
してやられた。
とても効果的だったと思う。
主演のジェフリー・ライトがいい味を出していた。
そんでもってクリント・イーストウッドの『陪審員2番』。
イーストウッドの映画が劇場公開されない時代が来るのかと衝撃だった。
業界的なことはわからないけれど、そんなに洋画離れが加速しているのかな。
すごく好きな映画だった。
主演のニコラス・ホルトのファンだから余計入りやすかったのかもしれない。
検事役のトニ・コレットもよかったな。
心が休まる時間が1秒もない、そりゃそうだ。
『リチャード・ジュエル』の反対にある映画ともいえる。
正義とは何か、たびたび映る天秤が印象的だ。
考えることから逃げちゃダメだな、きついけど。
秋も深まり下北トリウッドへ『ジガルタンダダブルX』を観に行った。
これは映画館で観れてよかった。
『RRR』ほど完璧ではなかったけれど、インド映画が『RRR』だけではないと教えられた。
歴史コンテンツ「コテンラジオ」のムガール帝国編で、
インドのスケール感についてヨーロッパを一カ国にしたようなものと言っていた。
言語も文化も違う小さな国がたくさん集まってできた大国、そのエネルギーは計り知れない。
笑えるくらい元気いっぱいの前半から一転、後半はそこらじゅうからすすり泣きが聞こえてきた。
終わり方だけは納得できなかったけど、それ以外はとても面白かった。
長々とだらだらと2024年の豊作ぶりを書いたけれど、去年最も私の心に残ったのは40年以上前の映画だった。
期間限定で契約したU-NEXTで観たジョン・カーペンターの『遊星からの物体X』だ。
ビッグタイトルだからDVDレンタル時代に何度か借りたはいいけど結局観なかった作品だ。
気分じゃないけどU-NEXTの元を取るために見始めたら度肝を抜かれた。
生まれる前からあったこの映画を36年間知らずに生きてきたのか、、、。
誰か勧めてくれてもよかったんじゃない!?
まだ一回しか観ていないから、あれは幻だったんじゃないかと思ってみたり。
心に『遊星からの物体X』用の穴が開いて、ずっとあの衝撃を求めている。
始まり方も終わり方も完璧だった。
私のオールタイムベストにこんなに難なく入り込んでくる作品があるんだな。
ジョン・カーペンターがいいのかと思って『ニューヨーク1997』を観たけどまだ足りない。
配信サービスにいちいちレンタル代を払うくらいならとBlu-rayを注文した。
これで少しは心の穴が温まるかな。
どうしよう、あの映画を観てからずっとソワソワしている。
フィギュアとか探してみようかな。
5回くらい観たら感想を書こうと思う。
原題『THE THING』を『遊星からの物体X』にした人もなかなかすごいな。
52年の『遊星よりの物体X』も観なきゃな、とは思っている。