「波紋」（ネタバレ注意）

普通の主婦の生活が夫の失踪で一変。
夫が失踪している間に新興宗教にはまり、一途に信じている。
それが嫌で一人息子は九州の大学に入り、そのまま九州で就職している。
介護していた夫の父親が亡くなり、今は一人暮らしだ。
スーパーのレジのパートと宗教活動が、日常の大半を占めている。

そこへ、突然、夫が帰ってきて、癌を患っていることを告白する。
渋々、帰宅を許したものの、夫に対しては嫌悪感しかなく、ストレッサーでしかない。

一人息子の婚約者が障がい者であることに差別意識を隠さないなど、自分より弱いものへは容赦なかったりする。

主人公の女性を筒井真理子が演じる。
家庭からも社会からも縛られている存在で、しかも宗教に依存している。
彼女からすれば、何も悪いことをしていないのに、なぜ幸せになれないのかというところだろう。

人生は自分の頭で考えて、失敗やよくないことも自分の責任で受け止める覚悟がないと、動かない。
主人公を救ってくれたのは、宗教でも家族でもなく、パート仲間との触れ合いだった。
人の痛みを知ることで、生きることに目覚めたのではないだろうか。

こだわりやわだかまりを捨てることで自由になれる。
ラストシーンは、自分を縛っていたのは、自分だったということに気付けたことの喜びの表現だと感じた。

点数は、7点（10点満点）。

タイトル：波紋
製作年：2022年
製作国：日本
配給：ショウゲート
監督：荻上直子
主演：筒井真理子
他出演者：光石研、磯村勇斗、安藤玉恵、江口のりこ、平岩紙、ムロツヨシ、津田絵理奈、花王おさむ、柄本明、木野花、キムラ緑子
上映時間：120分

「怪物」（ネタバレ注意）

是枝裕和監督の最新作。

予告編でも使われている「怪物だーれだ」というフレーズもあり、怪物探しをテーマにストーリーが進んでいく。
モンスターペアレントや学校の隠蔽体質といった問題に、ステレオタイプ的に巻き込まれる人たちがいる。
そこには誤解やすれ違いが絶妙に絡んで、お互いを憎悪の対象としか見なくなっていく。

コミュニケーション不全と言ってしまえばそれまでだが、断片的な事実を手掛かりに近づこうとしても逆効果だったりする。

悲劇の底流にあるのが二つの秘密であることが徐々に明かされていくと、物事の見え方が変わる。
人間が必死に生きることの意味の価値観が揺らぐ。
それでも自分を信じて、強さも弱さも抱えたまま生きていくことが答えだ。

実は、怪物はいなかったのである。
怪物は人間が生み出した幻想だったのだ。

点数は、8点（10点満点）。

タイトル：怪物
製作年：2023年
製作国：日本
配給：東宝、ギャガ
監督：是枝裕和
主演：安藤サクラ
他出演者：永山瑛太、黒川想矢、柊木陽太、高畑充希、角田晃広、中村獅童、田中好子
上映時間：126分