昭和な家族のかしましく、切ない肖像が
愛おしかったです。


「わが母の記」82点★★★★




井上靖氏の自伝的小説を
基にした映画です。
1959年。小説家の伊上(役所広司)は、
幼いころ、ひとりだけ両親と離れて育てられた。


「僕だけが母に捨てられた」と軽く話す伊上だが、
実はその思いをずっと引きずっていた。

そんな彼の思いを
妹たち(キムラ緑子、南果歩)らは軽く受け流している。



そんななか
母(樹木希林)の物忘れが激しくなり、
伊上は母に思わぬことを言われる。

そして彼は、自分が引きずってきた思いと
向き合わざるを得なくなり――。

うん、いい映画でした。

原田眞人監督は、
映画と俳優の間にうまい空気感を作り出し、
自然な呼吸からリアリティーを生み、画面にその風をのせるのがうまい。


多層なひだのある小説に
その手腕はピタリはまるようで、
「クライマーズ・ハイ」にもやられたけど、
これも面白かった。

母の記であると同時に、家族の記であるのがよく、
伊上とその妹たちとのやりとりは、
まるでサザエさん一家のような
昭和らしい、かしまし家族の微笑ましさがあり




ユーモアに満ちていて素敵。


そして
樹木希林氏のボケ芸が芸術の域!(笑)


キムラ緑子氏も見事だし、
役所広司氏も、全然顔つきも似ていないのに
夜の書斎で井上靖その人に見える瞬間があり、
“役者”ぶりにハッとさせられます。

しっかし
「シミチョロ」って懐かしいなあ!(笑)

最近、取材で70歳以上の方にお話を聞くことが多いのですが、
この時代の人には、いろいろ「家族の事情」ってもんがあって
なかなか複雑なんですよね。

またそれが本人の人格形成に、
大きな影響を及ぼしていたりする。
画一ではない育ち方が、
後世に名を残す、才能の土壌になっていたりするんだなあと


改めて思い、
いまの時代を、ふと考えたりもしました。

★4/28(土)から全国で公開。
「わが母の記」公式サイト