ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ドストエフスキーと愛に生きる

2014-02-21 22:59:41 | た行

このチラシを仕事場の壁に貼っています。
自らを律し、戒めるために(マジで。笑)


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「ドストエフスキーと愛に生きる」70点★★★★


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ドストエフスキーの『罪と罰』などの
ロシア文学をドイツ語に翻訳してきた
名翻訳家、スヴェトラーナ・ガイヤーのドキュメンタリー。

撮影当時は84歳、2010年に87歳で亡くなってます。

一見
「おだやかでゆったりとした老婦人の、暮らし系映画?」かと思わせて、
実はナチス時代を生き延びた女性の過去を巡る旅でもあり
贖罪の記でもあるという

器の大きさが、かなり意外でした。

でも、この映画はおそらく
彼女の過去を撮るというよりも
彼女の日常に寄り添うことから、自然に始まったのだと思う。

日々の食事を丁寧に作り、
同じように丁寧に翻訳を仕上げていく彼女の日常は
とても素敵で

翻訳家として言葉を大事にし、愛する彼女の発言はどれも深い。

アイロンをかける作業ひとつにしても
本当に大切なことを教えてもらったようで、
慧眼があります。

だからチラシを貼って、
日々のアイロンがけの際に見てるわけで(笑)

その言葉の大切さだけでも
作品になりそうなんですが

そんな風景のなか、冒頭で
「私には負い目があるのよ」というような発言がある。

それはなんなのか、が段々と明かされる。

ウクライナに生まれた彼女は
スターリン政権を生き延び

生きるためにドイツ語を学び、
友人のユダヤ人が殺されるなか、
ナチス将校の元で働いていたんですね。

そしてドイツに渡り、暮らすようになる。

そこに彼女が背負った贖罪があるのだとわかる。


さらに現在進行形の撮影のなか、
ある悲劇が起こるなど、
かなりドラマチックな展開になっていくんです。

監督は1965年生まれのドイツ人
ヴァディム・イェンドレイコ氏。

ドストエフスキー調査からスヴェトラーナさんに出会い、
彼女の暮らしや人柄、その過去に興味を持ったそうですが

まさか映画がこんな道筋になるとは、思っていなかったと思います。
そこにドキュメンタリーのおもしろさがある。

テーマが想像以上に大きく
捉え方が一通りではないので
「こんな人におすすめ!」がしにくい難しさもありますが

逆にすべての人を
深い思考へと呼び起こす作品だと思います。

“知”を大事に、生きてゆきたいなあと
つくづく感じるのでありました。


★2/22(土)から渋谷アップリンク、シネマート六本木ほか全国順次公開。

「ドストエフスキーと愛に生きる」公式サイト
コメント
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