なんだか本当にヤバい世の中になってきた今、
実にタイムリーな。
「怒れ!憤れ!-ステファン•エセルの遺言-」68点★★★☆
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アフリカからギリシャの海岸に
おそらくは密航船でたどり着いた一人の少女。
仕事を探すも、うまくいかず
警察に拘束され、強制退去となる。
行き場のない彼女は
パリにたどり着く。
そこでは多くの不法移民や差別された人々が
路上で暮らしていた――。
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この映画は、まず少々解説が必要かもしれません。
サブタイトルにあるステファン・エセル氏とは
1917年、ベルリンに生まれ、
対ナチスのレジスタンス活動に参加した人。
その後も
社会的弱者のために戦い続け
2013年に95歳で亡くなっている。
そのエセル氏が2010年に出版した
32ページのパンフレット「怒れ!憤れ!」は
貧富の格差拡大、人権など
世の矛盾や不公平、不正義に対し
「若者よ、怒れ!憤れ!」と訴えたもので
若者たちを中心にベストセラーになり
「アラブの春」にも影響を与えたそう。
で、本作は
そんなエセル氏の言葉を下敷きに
フランス人とロマ(ジプシー)の間に生まれた監督が
ドキュメンタリーのように、しかしフィクションで
ヨーロッパの怒れる問題を描いたものなんですね。
移民差別、人権、経済悪化、格差など
庶民に直結するさまざまな問題を
ドキュメンタリーで撮らず、
アフリカから来た不法移民の少女の瞳が捉える
現実として映し出す、という仕掛け。
威圧的な警官、
廃線や廃屋、路上で暮らす人々など
ドキュメンタリーも多く含まれている。
路肩に置かれたマットレスと毛布を写し、
そこを“ねぐら”にしている人の名前と年齢だけをテロップする方法は
なかなか象徴的でうまいと思いました。
顔出しがNGってのもあるんだろうけどね。
ドラマにいきなり
坂道を転がるオレンジなどのイメージ映像が挟まり、
ちょっと唐突かとも思うけど
暗示や比喩は感じられる。
鶏小屋に放たれるキツネの映像は、
映画のラストに巧妙につながっていました。
世の中をよりよくしようと
デモに結集する人々のちょっとした絆に、ウルッときたりして。
置かれた状況は違えど、
いまの日本にもすごく共振するテーマと思います。
★3/1からK's cinemaほか全国順次公開。
「怒れ!憤れ!―ステファン・エセルの遺言」公式サイト