「かくも長き不在」より、ある意味残酷かも。
「あなたはまだ帰ってこない」73点★★★★
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1944年6月、ナチス占領下のパリ。
ジャーナリストで作家のマルグリット(メラニー・ティエリー)は
夫とともにレジスタンス活動に参加していた。
だが、夫がゲシュタポに連れ去られてしまう。
マルグリットは夫の消息を知ろうとパリのナチス本拠地に通うが
情報を得ることができない。
そんな彼女を、仲間のディオニス(バンジャマン・ビオレ)が支え続けていた。
ある日、マルグリットは
ゲシュタポの手先ラビエ(ブノワ・マジメル)に声をかけられる。
夫を逮捕したのは自分だ、というラビエは
作家であるマルグリットを知っており、尊敬していた。
そしてラビエは「夫の情報を教える」と言い、彼女をカフェに呼び出すのだが――?!
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小説「愛人(ラマン)」や
「かくも長き不在」(1961年)の脚本家としても知られる
マルグリット・デュラスの自伝的小説が原作。
文学的な語りの美しさ、妙な静けさを持った戦時下のパリの独特の空気、
そして残酷さが
観終わってもまとわりつく、印象的な作品でした。
1945年のパリで政治犯として捕らわれた夫の帰りを待つ
美しき妻マルグリット。
新聞社で働きながら、レジスタンス活動もし、言葉を紡ぎながら、闘っている。
そんな彼女は「女の武器」を使ってゲシュタポの手先に取り入り、情報をもらうのか?
常にそばにいてくれる仲間の男との関係は――?
など、いろいろ想像もできるんですが
決して、陳腐なメロドラマや悲劇にはならない。
さらに印象的だったのが、当時のパリの状況。
街は妙に静かで、情報もなく、ホロコーストのことも誰もよくわかっていない――
戦争中ではあるんだけれど、どこか不思議に間の抜けた平常のなかで
夫を待ち続けるマルグリッド。
果たして夫は帰るのか――?
ドアベルが鳴るたび、電話がなるたび、時計が時を知らせるたび、ドキッとし
観客は「待ち続ける」時間のうろんさを体験することになる。
希望的観測はミリともない、いや、無理だろうと誰もが思っているなか、
話は意外な展開を迎えるんです。
しかし、ここからまた、静かに驚きの展開が待っているのだ――。
同じテーマを扱った名作「かくも長き不在」より
ある意味、残酷かもしれない――。
悲劇も喜びもすべてが
現実か、幻か、わからない。
その境界をさまようような、演出も巧みでした。
★2/22(金)からBunkamura ル・シネマほか全国順次公開。