ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

自由が丘で

2014-12-08 23:30:23 | さ行

いつもながら
やってくれるね、ホン・サンス。


「自由が丘で」72点★★★★


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韓国、ソウル。

一人の女性クォン(ソ・ヨンファ)が
以前務めていた語学学校で、分厚い手紙を受け取る。

それは以前付き合っていた
モリ(加瀬亮)からの手紙だった。

手紙は
「いまソウル行きの機内にいる。会いに行く」で始まり、
モリがソウルで彼女を待つ日々の様子が綴られていた・・・。

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ホン・サンス監督×加瀬亮主演。

自由が丘といっても場所は韓国。
“自由が丘8丁目”という名前のカフェが舞台・・・ってなんじゃそりゃ(笑)

まあ原題は「Hill of freedom」なので
これは邦題うまいで賞、なのかな(笑)


フリーダムなカメラワークもいつもどおり。

しかし
不在な彼女を待つ男の2週間、という一見シンプルな話は

不思議と
時系列がバラバラにつながっていて
「なんだろ?」な魅力を放つ。

そして
そのバラバラさに実は理由がある。

ヒントは手紙。


ワシこれに気づいたのが
けっこう中盤の後半くらいで(遅い?笑)

いやあ、改めて
映画という道具の面白さにハッとさせられました。


加瀬亮が所在なさげに裏路地を歩き回り
ぼちぼちと人と会話し、
ちょっとした出来事が起こる。

その日常風景だけでもおもしろいんですけどね。

英語がわかりやすくて、勉強にもなりました。

67分なのが残念。もっと見たいよね。


★12/13(土)からシネマート新宿ほか全国順次公開。

「自由が丘で」公式サイト
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ゴーン・ガール

2014-12-07 18:17:00 | か行

今年は年末に良作が攻めてきた。


「ゴーン・ガール」80点★★★★


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NYからミズーリ州の小さな町に移り住んだ夫ニック(ベン・アフレック)と
妻エイミー(ロザムンド・パイク)。

洒落た家に暮らす二人は
何不自由ないカップルのようだった。

しかし、その朝。

ニックが外出先から家に戻ると
エイミーの姿が消えていた。

争った跡があることから
ニックは即、警察に通報する。

そして事件は思いも寄らない方向へと転がっていき――?!

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デヴィッド・フィンチャー監督の新作。

これはすごいわ。
なんという手の込んだ恐ろしい話だろう。

何が恐ろしいって……言えない!(笑)


血吹き飛ぶ猟奇より、たちの悪い怖さ。
何も知らずに見に行くべきです。絶対にうわおとなります。


まずビジュアルの徹底ぶりがいい。

冒頭から、風景が写真集のように
カコーンと“乾いたアメリカ”な色合いと構図でカッコイイ。

撮影監督は世界観に
写真家ジョエル・スターンフェルドの作品を参考にしたそうで
そう、それです!


そんなさむざむ~としたイメージのなか
美人妻が失踪する。

当然、夫が疑われる。

ベン・アフレック、誠実そうにみえて
ビミョーでもあり(笑)

「やっぱり夫の仕業か?」「いや、でもなんかへんだぞ?」と
旗色がよくなったり悪くなったり
我々の感情もコロコロ弄ばれる。

そして「実は・・・」となってからも
またギョッとする展開に。

まあよく考えられてますわ。

監督の見せ方もすごいけど
これは原作・脚本のギリアン・フリンという女性作家がすごいと思う。
1971年生まれで大学卒業後、テレビ批評を書いたあと
作家デビューしたそう。

プレスの写真見ると美人だし。

なるほどねー。こういう人が
ゴシップや人のいやらしさなど
世間のドロドロを、クールな目で見ているんだなあと。
で、こういう話を考えつくんだなあと

納得できましたハイ。


★12/12(金)から全国で公開。

「ゴーン・ガール」公式サイト
コメント (2)
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ニューヨークの巴里夫

2014-12-04 21:36:29 | な行

久々に「他人の人生(のゴタゴタ)って、やっぱおもしろい!」という快作。


「ニューヨークの巴里夫」74点★★★★


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40歳のグザヴィエ(ロマン・デュリス)は
妻(ケリー・ライリー)と2人の子どもとパリに暮らし、
小説家としてもまずまず成功していた。

が。

かつての留学仲間イザベル(セシル・ドゥ・フランス)から
精子提供を頼まれたことをきっかけに
人生がおかしな方向に。

いろいろあってNYに行くことになった彼は
元カノ(オドレイ・トトゥ)とも再会し――?

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「スパニッシュ・アパートメント」(01年)
「ロシアン・ドールズ」(05年)(すいません、未見です)の
10年後を描いた作品。

ずっと同じ主人公ですが
前作を知らなくても全然OKです。


妻に浮気され、とりあえずNYへ追いかけるも
ゴツく金持ちそうな妻の彼氏にあっさり負けたり
元カノが登場したり、また別の女性に出会ったり・・・

結局は女性に翻弄されまくる「いい人」つうか
単にダメな40男の話なんだけど(笑)

冒頭のテンポよく、こじゃれた短いカットつなぎから
「お!」とワクワク。

で、それも
デタラメじゃなく、ちゃんと意味があったり。

全体にメソメソと心情を綴ったりしないドライさが絶妙で。
それをまた
主人公グザヴィエ(ロマン・デュリス)が
「え?そこ描いてくれないの?」と言ってるようにすら見えて
彼の表情だけで笑っちゃう(笑)


不惑どころか迷いまくりな同世代として
より共感できたのかもしれません。


劇中に登場するフランスの学者の言葉
「人生は刺繍だ。前半は表だけ見ていられるが
後半はそのゴッチャゴチャした裏側を見ることになる。
美しくはないが、勉強になる」って
至極名言だわ。


★12/6(土)からBunkamura ル・シネマほか全国順次公開。

「ニューヨークの巴里夫」公式サイト
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パーソナル・ソング

2014-12-02 23:57:39 | は行

こんな単純なことを
誰もやってこなかったなんて・・・!目からウロコ!

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「パーソナル・ソング」71点★★★★


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認知症の患者さんにiPodで
その人にとって思い出深い曲を聴かせると

無反応だった人が嘘みたいに覚醒するという

アメリカのソーシャル・ワーカー、ダン・コーエン氏の
驚きの試みを追ったドキュメンタリー。


いやー、びっくりしますよ、これは。
こんなに単純な方法で、こんなに効果が出るなんて!
「なんで今まで誰もやらなかったの?!」って、絶対思います。

老人だけでなく
初期のアルツハイマーを患う中年女性や、鬱症状の女性にも
ハッとする変化が起こるんです。


その人の体験や記憶にジャストミートする
“パーソナル・ソング”であることが条件で

「音楽が刻みこまれた脳の部分は
認知症のダメージを受けにくい」という解説に
なるほどねえ、思いますが

この映画は検証っぽい作りではなく
ひたすらに
「こういう事実が起こった」ことを写している。


ワシはこの手のネタには
医学的根拠や解明を求めてしまうクチですが

これに関しては
例えば映画のなかで流れる音楽に、
自分自身も自然に反応してることが何よりの実証?って感じで
なんか納得できた。

加えて
「老いや老人を忌み嫌い、見ないようにする、社会ではいかん!」という
より深いメッセージも大事に伝わってきたし。

自分の“パーソナル・ソング”は何なのか?
iPodのリストを見られるのは恥ずかしいしなあと思いつつ
考えちゃいました(笑)


この試みを広げようとする氏ですが
薬と違って「治療」ではないので
1台4000円ほどのiPadを工面できず、悪戦苦闘する。

全米500万人といわれる認知症患者に、iPod1台。
日本でも高齢者の4人に1人、約400万人が認知症を抱えてるといいますし

全米の患者にくらい
アップル社が支援すればいいのに!
どれだけの宣伝効果にもなることか・・・!と強く思いました(笑)

いや、でも購買層を上回っちゃうのか?
いずれにせよ、他人事じゃない、切実話です。


★12/6(土)からシアターイメージフォーラムほか全国順次公開。


「パーソナル・ソング」公式サイト
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超能力研究部の3人

2014-12-01 21:17:25 | た行

これは一体、何なのだ?!


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「超能力研究部の3人」72点★★★★


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出来れば、というか断然、
この映画は
「もらとりあむタマ子」(13年)も記憶に新しい
山下敦弘監督の新作、ってことだけを信じて

何も知らずに見て欲しい。

そのほうが
絶対におもしろいですから!


って、また職務放棄してるような発言してますが
ホントなんだもん(笑)


それ以上、進みたいかたはどうぞ。




乃木坂46というアイドルグループの
トップアイドル3人
秋元真夏、生田絵梨花、橋本奈々未氏を主役にした映画。


3人は「超能力研究部」に所属する
ちょっとオタクな女子高生。

好きな男子に告白するかですったもんだしたり・・・と
学園コメディ×SFのようなお話で
撮影を始めたものの


しかーし。

監督は演技ド下手な3人に四苦八苦し、
ゴネまくる芸能事務所に嫌気さし

しょうもないので
「映画を作る過程をドキュメンタリーにしちゃいました!」って感じの
やけっぱち&意趣返し的映画なのかと

すっかりダマされました。


さすがにあの統括マネージャーはおかしいよなあと思ったけどさー
あまりにリアルなんで(笑)


つまりこの映画は
フェイク・ドキュメンタリー。


「いかにもいるいる」に見えたアシスタントも
芸能事務所のマネージャーも
全部、役者。

重なるトラブルに青くなったり赤くなったりする
監督すらも
“自分という役”を演じていたとは!


成長する3人を、ちょっと応援してたのに!
彼女ら、女優じゃん!(笑)


そもそもこの映画は、成り立ち自体がフェイクらしく

乃木坂46メンバーに
「映画をつくります」と宣言して行われた
「嘘」のオーディションで勝ち抜いた3人なのだとか。


なーんにも知らないで観たのが
ラッキーでした。

エンドロールで
「え?」なのはサラ・ポーリーの「物語る私たち」みたいな衝撃と「やられた!」という喜び。

ただ
監督にヤラレタと思うと、爽快なんだけど
秋元氏にヤラレタと思うと、なーんかモヤっとするのもまた可笑しく(笑)


★12/6(土)から全国で公開。

「超能力研究部の3人」公式サイト
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