ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

未来を花束にして

2017-01-24 23:13:35 | ま行

メリル・ストリープの存在感が
いま、さらにでかくなっている。


「未来を花束にして」71点★★★★


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1912年のロンドン。

7歳から洗濯工場で働いてきたモード(キャリー・マリガン)は
同じ工場で働く夫(ベン・ウィショー)と幼い息子の3人家族。

ある日、モードは街で
女性の参政権を求める
「女性社会政治同盟(WSPU)」の抗議行動に遭遇する。

ごく普通の“女子”だったモードは
成り行きから、WSPUの活動に関わることになるが――?!


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1912年、女性に参政権がなく
低賃金で重労働に従事させられていた時代に

「その状況を変えたい!」と闘った
名もなき彼女たちを描いた作品。

キャリー・マリガンにヘレナ・ボナム=カーター、
ベン・ウィショー・・・と
魅力的なキャストに惹かれて観ると、
新たな知識を得られると思います。


彼らもその歴史を伝える、という趣旨に賛同したのでしょう。
大事なことを教えてくれる映画だと思います。


そして、先のGG賞でのスピーチでも抜群の存在感を示した
メリル・ストリープ女史が
実在したWSPUのカリスマ的なリーダーに扮し、
出番は少ないながらも、大きな存在意義を発揮しています。

知るべき歴史、なのですが
しかしまあ
この「ずしーん」とのしかかる鑑賞後感はなんだろう。

ほんの100年前まで、こんな状況があったこと、
労働者階級の女性たちが
家畜のように扱われていた事実を、知らなかったことへの怒りだろうか。

いまの世の不公平が、透けて見える悲しさからだろうか。


彼女たちのおかげもあって
たしかに状況は前進したけれど

でも例えば、この日本でだって
男女の賃金格差は埋まっていないし
2015年の女性の議員数割合は、186カ国中、147位。


女性たちの状況は、本当によくなったのだろうか?

“ガラスの天井”がいまだ存在する状況を
ヒシヒシと、もやもやと感じつつ
ドカンと蹴飛ばしたい気にもなるのです。


★1/27(金)からTOHOシネマズ・シャンテほか全国で公開。

「未来を花束にして」公式サイト
コメント (3)
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スノーデン

2017-01-23 20:34:08 | さ行

ドキュメンタリーと、こちらで
補完計画、完了。


「スノーデン」71点★★★★


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2013年6月3日。
香港の空港で、ドキュメンタリー作家ローラ(メリッサ・レオ)と
英ガーディアン紙のコラムニスト、グレン・グリーンウォルド(ザカリー・クイント)は
一人の青年と落ち合った。

青年の名はエドワード・スノーデン(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)。

CIAとNSA(米国国家安全保障局)に勤めていたという彼は
米国政府による恐るべき“国民監視”の実態を二人に明かす。

なぜ、彼は重大な告発をしたのか?

そして物語は
「国家の役に立ちたい」と軍に志願した彼が
見聞きした出来事を遡ってゆく――。


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史上最大の内部告発である“スノーデン事件”を
オリバー・ストーン監督が描いた作品。

さすが、手堅い。

「シチズンフォー スノーデンの暴露」
と同じシーンの再現もあり、実に丁寧で、丹念。

想像以上に誠実な作りなので
135分、やや長くも感じるんですが、見ごたえは十分です。


ドキュメンタリーでは描かれなかった部分、
スノーデンの経歴や、彼が見聞きしたことがドラマとして描かれ

さらに
米政府による大量監視が実際何のために、どのように使われたのか?
わかりやすく描いてくれているので

この問題についてより理解が深まったし
“監視社会”の怖さも倍増しました。

これを見てから、ノートパソコンの上にあるカメラのレンズに
シール貼ってます(マジで。笑)


それにですねえ
ジョセフ・ゴードン=レヴィット、声色も変えて
まあ本人によく似ていること・・・・・・(驚)

ラストにサプライズもありますよ。


★1/27(金)から全国で公開。

「スノーデン」公式サイト
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ドクター・ストレンジ

2017-01-22 23:36:06 | た行

映像だけじゃなくって
やっぱりキャラがよくないとね。


「ドクター・ストレンジ」72点★★★★


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スティーヴン・ストレンジ(ベネディクト・カンバーバッチ)は
“神の手”を持つ天才医師。

上から目線で、常にゴーマン。
鼻持ちならないけれど、誰もが「パーフェクト」と認めていた。

だがある夜、彼は交通事故を起こし
外科医として致命的な傷を負ってしまう。

「なんとか、自分の腕を取り戻したい」――
カトマンズの謎の治療施設の噂を聞いた彼は、
そこで指導者(ディルダ・スゥイントン)に出会うが――?!


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ベネディクト・カンバーバッチが
「アベンジャーズ」のマーベル・スタジオ作品に参戦!

まず映像、すんごいので
IMAXでぜひ!とオススメしたいです。

イメージは「インセプション」に近くて
天地や時空を歪ませた、エッシャーのだまし絵のようでもあり。
最新&最先端のセンス、という気がします。


しかし映像だけだとあくびも出ちゃうもんですが
キャラ作りがうまいんですねえ。

四角い印象で、善悪関係なく
「ちょっとおかしな人」なイメージの(失礼やな。笑)カンバーバッチならではの
キャラが存分に生かされていて


天才外科医だったゴーマン男が魔術の世界へ――?という
ぶっ飛んでる?な展開でも
なんだか、自然にスイスイ見てしまうし
しかも
ちょこちょこ笑えちゃうんですよね。


CMでも使われてたけど
どん底なドクター・ストレンジが最初にカトマンズの“治療施設”を訪れて
泊まる部屋でメモを渡されて
真剣な顔で
「これは、なんの呪文?」と聞くと、先輩が
「いや、Wi-Fiのパスワードだけど」とか(笑)


彼を助けることになる
“意思を持ったマント”とのやりとりも笑えました。

そうそう、見ていただけるとわかると思うけど
「ハウル」っぽいシーンもあるんですよ。

彼の参加で
「もうそろそろ、“アベンジャーズ”も卒業かなあ」と思っていた層を
確実に引き戻したと思います。
うまいなあ、マーベル。


★1/27(金)から全国で公開。

「ドクター・ストレンジ」公式サイト
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マギーズ・プラン 幸せのあとしまつ

2017-01-20 23:53:06 | ま行

番長の2014年ベスト映画
「フランシス・ハ」の女優が主演。
こちらも鋭く、おもしろい。


「マギーズ・プラン 幸せのあとしまつ」76点★★★★


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大学でアーティストのコーディネーターとして働く
マギー(グレタ・ガーウィグ)は
仕事が表すように、面倒見がよい、いい女子。

しかし、恋愛が長続きしないのが悩みの種で
合理的な彼女は、友人(トラヴィス・フィメル)に頼み
シングルマザーになろうと試みる。

が、そんな矢先、マギーは大学で学者のジョン(イーサン・ホーク)と出会う。
いいムードになる二人だが、
彼にはバリキャリの妻(ジュリアン・ムーア)がいた――!


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「50歳の恋愛白書」レベッカ・ミラー監督。
正直、「50歳の~」は2012年のワーストに入ってますが(苦笑)

これは
「フランシス・ハ」の女優グレタ・ガーウィグのおかげ、おかげ。
インディペンデントっぽい“いまっぽさ”が加わっていて、すごくいい。

なにがいいかというと、
まず単なる「好きだ」「恋だ」という恋愛話でなく
人間の性格分析や、相手との相性における役割の違いなど、
人間関係の構造をしっかり抑えて、愉快にリアルに描いている点。

いや、そんな難しいことじゃなく
見れば「あるある!」と納得してもらえると思います。


マギー(グレタ・ガーウィグ)は「ついつい人の面倒を見てしまう」タイプで
彼女と恋に落ちるジョン(イーサン・ホーク)は
「我が道をゆく、人に伸ばしてもらう」タイプ。

でもジョンは自分より強烈キャラな妻(ジュリアン・ムーア)の前では
「彼女をサポートする側」に回っている。

人間って相手との関係でキャラを変えたりしてるし、
そこには、必ず「我慢」も生じる。

そこのストレス度合いで
関係が続くか、続かないか、が判断されるんじゃないかなあ。

まあ、そんな登場人物の描写とキャラ設定がうまいので
マギーとジョンの関係を単なる「不倫」「略奪」とは思わないし

その後、「元妻に、ジョンを返そう」という意外なる展開にも
共感できるんです。


なぜ、真面目な私ばかりが、割りをくうの?
別に人の面倒を見る役をしたいわけじゃないんだけど・・・。

そんな不器用なヒロインを
大またでドシッと立つグレタ・ガーウィグが好演してます。
え?褒め言葉になってない?


★1/21(土)から公開。

「マギーズ・プラン 幸せのあとしまつ」公式サイト
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沈黙-サイレンス-

2017-01-18 21:03:27 | た行

みんな、声がいい。
耳をすませて、ぜひご堪能あれ。

「沈黙-サイレンス-」70点★★★★


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17世紀。
江戸初期の日本では、幕府による
激しいキリシタン弾圧が行われていた。

ポルトガルの若き宣教師ロドリゴ(アンドリュー・ガーフィールド)と
ガルペ(アダム・ドライバー)は

日本で捕らえられ、棄教(=宗教を捨てること)したと噂される
師匠(リーアム・ニーソン)を探しに
長崎の島にやってくる。

彼らは弾圧に耐え、教えを貫こうとするキリシタンの人々に迎えられるが
だが、状況は思いのほか厳しかった――。


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遠藤周作原作×マーティン・スコセッシ監督。

神とは、信仰とは、をテーマに
歴史を批難するわけでも
まして何かを押しつけるわけでもない
監督の冷静と達観が映画を凜と立たせています。

しっとり湿り気を持つ映像も
“日本的なるもの”を違和感なく、表現している。


なぜ宣教師たちは来たのか? 布教とは何か?
なぜ彼らは、こういう運命を辿ったのか?
――キリシタンの歴史を初めて深く知りました。

自らも命がけで、ましてや信者の命も奪いながら
布教する意味とはなんなのだろうか?

観る人も主人公の宣教師と同じく、悩み、揺れると思うんです。

で、彼らに「棄教」を迫る
長崎奉行の井上筑後守(イッセー尾形)と通訳の浅野忠信に
我々も説得される。

「日本じゃキリスト教は無理なんだから、意固地になるのはやめなさい」
「日本は沼地なの。宗教は根付かない!」――なるほどねえ・・・。


その説得を担っているのが
役者たちの“声”のよさ。

全員が声でしっかり演技をしていて
目をつぶって聞いていても気持ちがいい(いや、寝てたわけじゃないですぞ!笑)

アンドリュー・ガーフィールドの
ささやきのような祈りの声がナレーション代わりだし
キーマンとなるリアム・ニーソンの声もいいし、

イッセー尾形、浅野忠信、両氏もそう。

結局は
宗教も思想も「相手に押し付けるな」ってことで

改めて、いまの時代この話は
大きな意味を持つなあと思いました。


★1/21(土)から全国で公開。

「沈黙 -サイレンス」公式サイト
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