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ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ザ・コンサルタント

2017-01-16 23:48:26 | さ行

これは全米の評判通りおもしろい!


「ザ・コンサルタント」78点★★★★


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シカゴ近郊の田舎町で小さな事務所を構える
会計コンサルタント、クリスチャン・ウルフ(ベン・アフレック)。

数字に関しては天才的だが、コミュニケーション力はゼロ。
さらに趣味の狙撃の命中率は100%という
変わった男だ。

そんな彼のもとに大企業から
調査依頼が持ち込まれる。

企業の経理担当者デイナ(アナ・ケンドリック)が
使途不明金に気がついたのだ。

同じころ、アメリカの財務省の分析官(シンシア・アダイ=ロビンソン)は
上司(J・K・シモンズ)から
麻薬組織や武器商人などを顧客に持つ“闇社会の会計士”として知られる
ある人物を探すように命じられていた。

写真に写ったその人物は、たしかにウルフだった――。


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これは評判通り、おもしろい!


ベン・アフレックが謎の会計士に扮するサスペンス・アクションで
まずは彼のキャラ立ちがバッチリ。

数字や射撃など
得意分野には驚異的な能力を発揮する天才だけど
コミュ能力はゼロ。

自分が決めたルールに忠実で予定の変更に弱い――などなど
あきらかに「うん、うん」な特徴を持っていて
ミステリアスだけど完璧じゃない。

また
ところどころに彼の少年時代の映像がはさまるんだけど
自閉症らしき兄と、それを見守る弟の二人が写っていて
「ん?彼の子ども時代はどっち――?」と惑わせる仕掛けもうまく

冒頭からの伏線も着実に回収されていくので
サスペンスとして気持ちがいいんですね。

最後まで「お!」と思わせてくれます。


しかも
闇社会部分の描写より、
昼間の彼の「超・会計士」っぷりのおもしろさのほうが比重が高いので
バイオレンス推しでなく、ハード過ぎることないのもよかったなー。

コミュ障の彼が、わずか心を開く
マジメな経理担当アナ・ケンドリックもナイスキャラ。
最近は彼女が出る映画も、おもしろいの法則。


★1/21(土)から全国で公開。

「ザ・コンサルタント」公式サイト
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本能寺ホテル

2017-01-12 23:28:55 | は行

綾瀬はるか氏のおとぼけが期待どおり。


「本能寺ホテル」58点★★☆


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現代。

倉本繭子(綾瀬はるか)は
結婚を前に、彼氏の両親に会うために京都にやってきた。

予約の手違いでホテルを探すはめになった彼女は
レトロな「本能寺ホテル」を見つけて、宿泊することに。

だがエレベーターを降りると、
そこは1582年の本能寺。

繭子はそこで「本能寺の変」の前日の、
織田信長(堤真一)に会うことになり――?!


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脚本制作にまつわる
諸処事情をツイッターで目にしていたので
鑑賞前から相当にモヤッとしてしまいますが

映画に、まして俳優に罪はありません。
(とか考えちゃうところがすでに罪なんですけど!泣

映画としては
綾瀬はるか氏らしいおとぼけが期待どおりで
歴史への興味の第一歩になりそう。

まあ歴史オンチなワシも、この映画で実際
「本能寺の変」をググったわけですが
本当に諸説あり、謎ありで
ミステリーの題材になる要素が満載なんですねえ。

それを考えると
もっと重層に複雑なミステリーでもよかった気がする。


話は現代に生きるヒロインがひょんなことから
本能寺の変の前日にタイムスリップし
行ったり来たりする・・・というものだけど

歴史のナゾ、というよりは
特にやりたいことも見つからず、
なんとなーく就職し、なんとなーく結婚することになった
ヒロインの“自分探し”的要素が強いんですね。

テンポもややスローで
もそっと書き込みと、厚みが欲しかったなと感じました。

ただ意外に「京都観光」の要素があって
行きたくなるのがいいかも。

金平糖の店とか、有名だもんね。


★1/14(土)から全国で公開。

「本能寺ホテル」公式サイト
コメント (3)
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ネオン・デーモン

2017-01-11 23:59:48 | な行

「ドライヴ」監督の新作です。


「ネオン・デーモン」70点★★★★


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モデルを目指して田舎町からロサンゼルスに出てきた
16歳のジェシー(エル・ファニング)。

本人は恥ずかしそうにオドオドするばかりだが
その美しさと存在感は
周囲が息をのむほど「完璧」だった。

すぐに有名カメラマンやデザイナーに見出された彼女は
成功を手にすると思えたが――?!


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田舎から出てきた無垢な少女モデル=エル・ファニングの
息してるだけで危うい
その存在感から、マジで目が離せない。


エル・ファニング自身は何もしていないのに
周囲に及ぼす、緊張感。
これは彼女の“不安定な完璧さ”で
成り立ってると思います。



「ドライヴ」(11年)
で心酔させ
「オンリー・ゴッド」(13年)で突き落とした(笑)
1970年、デンマーク生まれ、
ニコラス・ウィンディング・レフン監督。


この人の世界は
本当に徹底してるなあ・・・と絶句しますね。

超越と美と悪趣味の、きわどいバランス。

悪趣味一歩手前のところでやめておけばいいのに、
そこを超えちゃうところが
本物のヘンタイなんだろうなあと(笑)

モチーフ的に
岡崎京子氏の「へルタースケルター」を想起させる点も興味深く。


冒頭の衝撃的なシーンからつかまれるし
(これが「やられた!」感、満点)

非常に稀有な映画なんだけど、
ただ、残るのは美の余韻と感覚・・・なんだよね。

ストーリーが弱いのが、ちと不満ではありましたが
たしかに“美”を見せてもらいました。


★1/13(金)からTOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国順次公開。

「ネオン・デーモン」公式サイト
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ミューズ・アカデミー

2017-01-07 23:42:15 | ま行

「シルビアのいる街で」

好きなんですけどね~。


「ミューズ・アカデミー」40点★★☆


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バルセロナ大学のピント教授が開講した
「ミューズ・アカデミー」。

それは
数々の芸術家たちの想像欲を奮い立たせてきた
ミューズ(女神)について考察し、
現代のミューズを探る、という画期的な授業・・・のはずだったが

それは
やがて彼ら自身の恋愛問題になってゆき――?


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「シルビアのいる街で」の
ホセ・ルイス・ゲリン監督作。

実際の大学の授業風景を写しているそうで
ドキュメンタリーと思う方がいるようですが
これはフィクション。

ピント教授と奥さんの冷えた夫婦の口論とかもリアルなんですが
まあこりゃフィクションですわな(笑)


現代のミューズ(女神)を探るべく
開講された大学の授業。

教授と教え子の女性たちとの
高尚にて哲学的な対話は、
しかし、やがて彼ら自身の恋愛問題になってゆき――?という展開で

すごく考察できる作品とされていますが
ワシには
知的な論争とみせて、単なる不倫アカデミーでは――?!という(笑)

ムズカシイこと言ってるけど
結局、痴話げんかじゃね?という(苦笑)

想像する展開そのままというか。
いや、すみません(笑)。


まあそこが
観る側を試すようでおもしろくもあるんですが。


ただですね
そんな感じを想像しつつも期待していたのは
「シルビアのいる街で」でも書いたんですが、

あの映画って
ふわふわと浮遊するカメラが一人の女性にFIXすると
「あ、この子がヒロイン?」と思わせて、
でも違っていて。

誰からストーリーが始まってもおかしくないほどに
それぞれの女性が魅力的で、
観ながらの想像の余白が楽しかったってところ。

その愉しみを期待していたんですが
それがなかった。

単に
女性たちが“ミューズ”じゃない~!(泣)というところが
残念だったんでしょうかね。


★1/7(土)から東京都写真美術館で公開。

「ミューズ・アカデミー」公式サイト
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The NET 網に囚われた男

2017-01-06 23:32:29 | さ行

キム・ギドク監督の新作です。


「The NET 網に囚われた男」69点★★★★


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北朝鮮の漁師ナム・チョル(リュ・スンボム)は
妻と幼い娘子と、貧しくも平和な日々を送っていた。

だが、ある日いつものように漁に出た彼は
ボートの故障で
北朝鮮の警備兵たちの目の前で
韓国側に流されてしまう。

韓国の警察に拘束された彼は
スパイ容疑で執拗な尋問を受けることに。

そんななか
韓国の若い警護官オ・ジヌ(イ・ウォングン)は
ナム・チョルの潔白を信じるのだが――?!


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ギドク氏がプロデュースした
「レッド・ファミリー」を思い起こさせる
南北問題を描いた社会派ヒューマンドラマ。


どぎつい暴力描写はなく、
優しいイケメン警護官が登場したり
ギドクカラーの新たな展開かも。

ワシは「アリラン」
いまでもじわじわ好きなので
こういう“痛いのことさらに描かない”系ギドクワールドが好みです。


主人公はボートの故障で韓国に流れついてしまった
純朴な漁師ナム・チョル(リュ・スンボム)。

事故だったのに
韓国からは「北朝鮮からのスパイか!」と疑われ
北朝鮮に帰ったら
今度は「寝返ったスパイだろ!」と疑われてしまう。

違う!って言ってるのに!
結局、南北どちらにも疑われ、同じような取り調べをうける
その理不尽さやくだらなさを、
観客も主人公と一緒に辛抱強く見ることになるんですね。

優しい韓国側の警護官との
わずかな心の交流が救いなんですが
でも北に帰ることになると、主人公は
警護官が差し出すぬいぐるみのお土産すらも拒絶する。

でも
北に帰ると、彼がそこまで頑なだった理由もわかるわけです。


韓国側はとにかく主人公を
「気の毒な国から来た、かわいそうな人」としているけれど
いや、それ
もしかしたら、違うんじゃないか?と提示する。


この感覚が“中の人”である
監督だからこそのリアリティかもしれません。


昨年11月に来日した
ギドク監督に「AERA」でインタビューをさせていただきましたが

取材後にワシがイスに落としていたボールペンを
「落ちましたよ」と教えてくれる
気遣いのある優しい方!

今年3月にいよいよ
福島を舞台にした話題作が日本でも公開されることが決まったそうです。
これはご本人も認めるかなりの衝撃作だそうで
“攻め”の姿勢を変更したわけではないようです(笑)


★1/7(土)からシネマカリテほか全国順次公開。


「The NET 網に囚われた男」公式サイト
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