ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

オリーブの樹は呼んでいる

2017-05-20 23:34:29 | あ行

そうか、これ
夫婦共同作業ね(笑)


「オリーブの樹は呼んでいる」60点★★★☆


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スペインバレンシア州。

20歳のアルマ(アンナ・カスティーリョ)は
オリーブ農園を営む祖父と、幼い頃から仲良しだ。

しかし、数年前に父が樹齢2千年のオリーブの樹を売ってしまってから
祖父は口を聞かなくなり、心を閉ざしてしまった。

ついに食事もしなくなった祖父を見て
アルマは考える。

「オリーブの樹を取り戻せば
おじいちゃんを救うことができるかも?」

そしてアルマは
祖父のオリーブの樹を探す旅に出るが――?!


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「天使の分け前」「わたしは、ダニエル・ブレイク」などケン・ローチ監督とのコンビで知られる
脚本家ポール・ラヴァーティと

「エル・スール」の少女役から
監督になったイシアル・ボジャインのタッグ。

この二人、夫婦なんですよね。
で、3作タッグを組んでいるんですね。


で、お話は
樹齢2千年という貴重なオリーブの樹が伐採されて
「環境保護」を喧伝するような企業に売られている・・・という
なんじゃそりゃ!な状況を訴えつつ、

そうしないとやっていけない
農家、ひいてはスペイン全体の
苦しく、閉塞した状況を描いているんですが

うーん、これは生理的感覚によるものなのかもしれないけれど
冒頭から
緩急をつけたカットバックや音楽が
ちょっとワシにはしつこくて
どうもリズムについていけなかった。

もぎ取られてしまったオリーブの樹、おじいちゃんとの思い出・・・と
過去を振り返るばかりのヒロインに
感情移入しずらかったというのもある。

やっぱり映画って
監督次第というか、監督によって違うなあとか
当たり前なことを思ったり。

ただ、オリーブの樹が、こんなに堂々たる大木になるんだ!というのは
かなり驚きだった。

うちのベランダのひょろりとしたオリーブも
2千年で、こうなるのか?・・・(いや、ならなそうw)


★5/20(土)からシネスイッチ銀座ほか全国順次公開。

「オリーブの樹は呼んでいる」公式サイト
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メッセージ

2017-05-16 23:50:25 | ま行

観終わって、いまも、考えて、考えてる。
この余韻の長さがたまらん。


「メッセージ」73点★★★★


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湖畔の家に独り暮らす
言語学者のルイーズ(エイミー・アダムス)。

ある日、いつものように大学に行くと
学生たちが騒然としている。

「先生、テレビつけてください」と言われてつけると
そこには、巨大な謎の物体が写っていた。
地球のあちこちに出現しているそれは
「宇宙船」らしい。

そしてルイーズのもとに
軍のウェバー大佐(フォレスト・ウィテカー)がやってくる。

「この言葉が、あんたにわかるか?」

それは異星人のメッセージなのだろうか――?


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「灼熱の魂」(名作!)のあと、次々と作品を発表し、
「ブレードランナー2046」の公開も控えている
旬なドゥニ・ヴィルヌーヴ監督のSF。

ワシの大好きな思考系SFの要素があり
「インターステラー」「ツリー・オブ・ライフ」を思わせる
時空の考察が、とても好みだす。

それに異星人コンタクト話も好きなんだよね~。
なんたって「未知との遭遇」が映画とのセカンドコンタクトだから。


で、本作は
流れるような自然なカメラワークで
主人公のいつもの日常から
巨大な宇宙船が出現する非日常へ、実に美しくつながっていく。

撮影は「プリズナーズ」でも一緒だった
ロジャー・ディーキンズか思ったけど

彼が別のプロジェクトでNGだったため
ブラッドフォード・ヤングが担当していた。
「アメリカンドリーマー」の人ね!すごい見事でした。


異星人とのコンタクトシーンもとても静かで、
映画全体が、どこか悠々としていて、そこが好き。

サウンドの迫力もすごいですねえ。

しかし、話は
思考を異次元に飛ばさないといけないほど
高度な感じになっていくので
(タイムトラベルものとか、ワシ、いつも思考を追いつかせるの大変なの。好きなんだけど。笑)

うーん、観終わってから
一晩、数日、ずっと頭から離れなかった。

原作も読んでみたけど
これは、映画がすごくいいと思った。

ぜひ、劇場でご覧くだされ。
そして
「この映画について」語り合わせてください(笑)


★5/19(金)から全国で公開。

「メッセージ」公式サイト
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夜空はいつでも最高密度の青色だ

2017-05-11 23:46:07 | や行

石井裕也監督、
こっちに戻ってきてくれてよかった!(笑)


「夜空はいつでも最高密度の青色だ」77点★★★★


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建築現場で働く慎二(池松壮亮)は
日雇い労働者。

同僚の智之(松田龍平)や、中年の岩下(田中哲司)、
出稼ぎフィリピン人(ポール・マグサリン)と組み、
毎日、黙々と汗を流しながらも
漠然とした不安を感じている。

ある日、慎二は智之たちと行ったガールズバーで
美香(石橋静香)と出会う。

むなしさと、孤独と、不安と。
互いに、なにか「通じるもの」を感じる二人だったが
何も起こることはない。

そして、慎二はある場所で
思いがけず美香と再会する――。


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石井裕也監督が
最果(さいはて)タヒ氏の詩集を表現した作品。

とにかく「いま」を生きる人間の
不安や鬱屈を鮮烈に捉えていて、リアルで、やばい(笑)


大作も作ったりしてたけど
監督はやっぱり、こういう匂いが似合う!

ワシ、監督の「ぼくたちの家族」で池松壮亮氏を認識したので
その意味でも、嬉しかったです。


舞台は東京。

深夜に携帯から鳴り響く地震速報
毎日の人身事故。

主人公の慎二(池松壮亮)は
日雇いの肉体労働で死ぬほど働いてるのに、年収200万ちょっと。

家賃6万5千円のアパートに帰ると
ポストには
電気、ガス、水道に携帯代の請求のハガキ。

そして、払っていない年金のハガキ。・・・もうポストを見るのがいやだ。

捨てられた子犬に出会っても拾える身分でもない。


そんな彼と出会う美香(石橋静香)は
ガールズバーでアルバイトをしてる女の子。

出会った二人は、
想いあっても、まるでつながらぬまま。

口を開けば「いやな予感がする」とか←あるある!

あと
「ねえ。放射能ってどのくらい漏れてると思う」
「知らない」
・・・うへえ。リアル(苦笑)

すべてが映画的に劇的でなく、
だからこそリアルに映画的なのだ。


この「いやな予感しかねぇ」世界を
どうやって、彼らは、我々は生きていくんだろう。

ここにもまた、映画でなければかなわない
そこに焼き付けられる風景と、時代の象徴があり、
忘れがたいものがあります。

しかし
映画のなかの渋谷の、ぬるく、鬱屈した空気は
自分が20代だったときの、あの空気そのままにも思えて

若者だけじゃなく、あらゆる人に響くと思います。


★5/13(土)から新宿ピカデリー、ユーロスペースで先行公開。5/27(土)から全国で公開。

「夜空はいつでも最高密度の青色だ」公式サイト
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マンチェスター・バイ・ザ・シー

2017-05-10 23:50:48 | ま行

これは忘れない映画。


「マンチェスター・バイ・ザ・シー」80点★★★★


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アメリカ・ボストン州の郊外。

リー(ケイシー・アフレック)は
方々の家に行き、淡々と電球を替え、トイレを直す便利屋。

一見“フツーの男”のような彼だが
どうも、(いやあきらかに)なにかワケがありそうだ。

そんな彼に、
地元マンチェスター・バイ・ザ・シーに住む兄が倒れたという
知らせが入る。

地元に戻ったリーは
兄の息子、16歳のパトリック(ルーカス・ヘッジズ)の
面倒を見ることになる。

だが、彼にとってそれは
過去のある出来事と向き合うことでもあった――。


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祝・アカデミー賞、脚本賞!そして
ケイシー・アフレック主演男優賞!

いや~、しみた。

喪失や痛みを描く映画は数多いけれど
なぜ、この映画が忘れられないものになるのか。

月並みかもしれないけれど
そのすべてが“映画であってこそ”もたらされるものだから、と思うんです。



色あせた海辺の町、きしむボート、水音。

過去シーンと現在のシーンに継ぎ目がなく
慣れるまで、ちょっと不思議なリズム。

ケイシー・アフレックの背中や
ミシェル・ウィリアムズのあの表情。
(マジに、あの数秒に泣かされた!

ストーリーというよりも
映画のエッセンスや、感じた痛みが、映像と空気をともなって
鮮明に思い出されるんですよね。


ある悲劇に責任を感じ、自分を許せず、
楽しむことも感じることも、禁じてしまった男。

過去と現在をいったりきたりしながら
彼の抱えている“もの”が、徐々に明らかになっていく構成が巧みで

彼の苦しみが、ささくれた痛みが、
ひたひたと伝わってくる。

そんな彼が、16歳の少年の面倒を見ることになり
そこから、ほんのわずかに、光が射しはじめる。

この少年と、リーとのやりとりがおかしく
ときに吹くこともあり(笑)
こんなに重苦しい題材なのに
映画をライトに乾いた感じにしているんですよねー。
そこが、いい。

まあ、とにかく
観終わると、記憶のなかに、
ピリッと痛む悲しみとともに、あの町の風景が刻まれる――という案配です。


応援コメントにも参加させていただきましたが
ホント、このタイトルってバンド名みたいじゃない?(笑)

最近、あまりバンド名にしたくなる映画ってないから
この映画は、絶対にセンスはずさないと思います。


★5/13(土)からシネスイッチ銀座、新宿武蔵野館ほか全国で公開。

「マンチェスター・バイ・ザ・シー」公式サイト
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パーソナル・ショッパー

2017-05-09 23:52:18 | は行

これはですね・・・かなり、予想外!


「パーソナル・ショッパー」70点★★★★


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舞台はパリ。

モウリーン(クリステン・スチュワート)は
多忙なセレブに代わって買い物をする
“パーソナル・ショッパー”だ。

今日もワガママなセレブに振り回される彼女には
ほかにも悩み事があった。

最近、兄を亡くしたばかりで
まだ心の整理がついていないのだ。

そんなとき、彼女の携帯に
差出人不明のメッセージが届く。

いったい、誰からのメッセージなのか?!


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「アクトレス ~女たちの舞台~」が超絶よかった
オリヴィエ・アサイヤス監督。

再びクリステン・スチュワートを起用しての最新作とくれば
そりゃ期待度MAXになるってもんです。

セレブのために買い物をする
“パーソナル・ショッパー”という仕事を描いていて
「カルティエ」や最新ブランドが協力――となれば

若き主人公が、華やかな世界を垣間見て
若さゆえの野心や欲望に翻弄される――的なものを想像するじゃないですか?

ところがですね・・・
かなり予想外。

いや、期待が外れたとかでなく
全然、想像と違うテイストなんですよ!

ネタバレはしたくないけど
まあこれを書かないと進まないので書いちゃいますが

予備知識ナシがお好みの方はここまで、ということに・・・(笑)














ということで。
そう言われても気になる!(よね。フツー・・・すみません)
という方に言っちゃいますと

これ、けっこう純然たるホラーなんですよ!


初っぱなから明かされるんですが
主人公モウリーンは霊媒師でもあって
それが亡くなった兄と関連して物語が進んでいくんです。

で、初っぱなから
けっこう怖い(笑)


明るい日の光のなかでも、“それ”がある感じは
スーパーナチュラル系、に属するのかな。
家の中でのシーンが多く、
黒沢清監督のテイストもありますね。


実際、
主人公がセレブ世界と現実のギャップに翻弄される、的な
展開もあるのですが
うーん、これ主題はそっちではないよねえ。

このギャップをどう取るか、がキーだと思います。

だって
クリステン・スチュワートはすごくいいし
ワシはこのゾワゾワ感、嫌いじゃない。

ラストも好きですね~。


★5/12(金)からTOHOシネマズ 六本木ヒルズほか全国で公開。

「パーソナル・ショッパー」公式サイト
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