もう僕は駄目だ・・・もう死ぬんだ・・・
皆さんは、そういう恐怖に襲われたことはありませんか?それも1年後や数ヵ月後ではなく、すぐにでも死んでしまうという恐怖に怯えたことはありませんか?僕はあります。
食事前の方は後で読んで下さい。気分が悪くなっても当方免責とさせて頂きます。
あれは2年前の年末・・・
いつものような朝でした。昨晩の忘年会が遅かったのと、年末業務の疲れが溜まっていた朝。朝食を取り、トイレに行った時、その恐怖に遭遇したのです。
トイレは健康のバロメーター。しかしその日の朝のものは違いました。
まるで重油。いや、どす黒いコールタール、鉛色の海が我が家の洋式便器の中を埋め尽くしていたのです。目はそこを凝視し、1歩も動くことが出来ません。声さえも出ませんでした。一体どれだけの血液が腸の中に流れ込んだら、こんなことになるのでしょう!
トイレから出た僕の顔は蒼白。
僕の表情を見た家族が驚きました。僕は今見たモノについて話しました。すぐに病院に行くように、呆然とする僕は入院の準備をしました。
「あと何日生きることが出来るのだろう?」
なぜこの僕が・・・
タクシーを拾い救急病院へ。僕の順番が回って来ました。
こんな近代的な「白い巨塔」のロケに使われていそうな病院は初めて。子供まではしゃいで診察室に入る始末。
止める元気もありません。
「ここ数日間、食べたものを、落ち着いて思い出して下さい。」ドクターが言いました。
気が動転していながらも、必死で思い出します。
「イタリアンハンバーグ、ほうれん草のソテ、冷奴、トマト、カキフライ定食、アジのフライ定食、納豆、・・・・・・・・」
そんなこと聞く前に早くレントゲン撮れ!
胃カメラでも腸カメラでもすぐ入れろ!
そう心の中で叫びながら、1週間分を思い出し・・・・ついに昨夜のメニューまで来ました。
・・・「お好み焼き、もんじゃ焼き」
「あ~!パパ、1人で“もんじゃ”食べてる!ズルイ!」
「あんなもの上手くないぞ!あれはゲロ焼きって呼んだほうがいい!」
「でも僕食べたこと無いもん!」
「あんなもん食べるもんと違うぞ!ドロドロを貧乏たらしく集めて・・しかも何が混ざってると思う?イカの墨やぞ!習字する墨と同じ液体!真っ黒なゲロ食べたんやぞ!」
女性看護士さん達が、笑いをこらえ切れない様子。そりゃ漫才みたいに見えるわな!
でもこっちはもう死ぬんやぞ!そう叫ぼうとした時、
「ご主人、だ、大丈夫です。も、問題はありません」
ドクターも笑いをこらえ切れません。
え?知らなかった・・・イカ墨なんか食べたら、そのまま下に出て、暫く「あれ」がそういう色になるなんて・・・
今でこそ笑えますが、これまでの人生で唯一終わったと思った瞬間が、この事件でした。
この後、「イカ墨もんじゃ」は珍しいと看護士さんに言われました。
これ以来、関西から出張に来た者を、連れて行くのはこの店で、おごるメニューはイカ墨もんじゃになったことは言うまでもありません。そして続々と病院に行った者が後を絶たないのも、言うまでも無い。