The door is not closed, and that's why I didn't use the “r” word.
(ドアは閉ざされてはいない。だから私は“r”という言葉を口にしなかったのよ)
* 「rという言葉」とは、言うまでもなくRetirement(引退)です。
今年5月13日に、女子プロゴルファーのスウェーデンのアニカ・ソレンスタム(38)が、今シーズン限りでの引退を表明していたが、米女子ゴルフツアー今季最終戦「ADT選手権」(フロリダ州トランプ・インターナショナルゴルフクラブ/6,523ヤード・パー72)を終え、ツアーに別れを告げた。今大会が米国ツアーの引退試合となるアニカ・ソレンスタム(スウェーデン)は、トータル5オーバー(74-75)で、カットラインに2打及ばず予選を通過することは出来なかった。
「まだあと2試合(シンガポールとドバイ)あるので、明日からもツアープロとしての生活に変わりありません。でもこれで緊張感溢れる競技の場に立てなくなると思うと、とても寂しいです」。元女王は涙をこらえ、笑顔で観客に手を振った。
これまで多くの勝利を重ね、また記録と記憶の両方を残し、多くの選手が憧れを抱く偉大なプレーヤー、アニカ・ソレンスタム。有終の美を飾れなかったのは残念だったが、すがすがしい笑顔でギャラリーの声援に応え、いつまでもやまない拍手を背に会場を去っていった。
<試合後の最後のインタビュー>
―303試合目、お疲れさまでした。72勝を挙げ207試合でトップ10入りを果たし、素晴らしいキャリアをまっとうされました。今の率直な気持ちを語って頂けますか?
アニカ・ソレンスタム(以下A・S):そうですね。おっしゃる通り素晴らしいキャリアをまっとう出来たと思います。心から楽しませてもらいました。短い時間がこれまで私が経験してこと、成し遂げたこと、そして今どんな心境なのかを語るのは難しいです。でもここに居る皆さんは何度もお会いしている方々ですから、余計な説明は省略してもいいですよね。
でも今週は色々な感情がこみ上げて来てしまいました。火曜日にここに到着したとき、さまざまな感情がないまぜになって、複雑な心境でした。もう、こういう舞台に立つことはないんだろうな、と思うと、今までの楽しかったことが走馬灯のように脳裏を駆け巡ってしまって。でもこういうキャリアを送れたことを誇りに思うし、とてもラッキーだったという思いが強いです。もう少ししたら薬物検査に行かなければならないので、どうぞ質問して下さい。
―えっ、薬物検査ですか?
A・S:そうです。2週間前にテストしたんですが、どうしたまたしなければいけないかはわかりません。
―引退するのに?
A・S:全くわかりません。引退させたくないのかしら(笑)。
―最終ホールに上がって来るときの心境を聞かせて下さい。
A・S:さっきも言いましたが、今週は始まる前から楽しい気持ちと寂しい気持ちが交互に押し寄せてきて、最終ホールでも同じ思いでした。私の決断は間違っていなかったのかしら? と自問自答する瞬間もありました。もちろん正しいとわかっているのだけれど、何度も自分に問いかけてしまう。
今シーズンが終わったら、今週が終わったら、あと何カ月かで、という言葉を使ってきたけれど、あっという間に(LPGAツアー)最後の試合が来て、実際18番のフェアウェイに立つ自分が居て、これがLPGAツアー最後のアプローチショットという瞬間が来て、本当に沢山の思い出が頭を過りました。
素晴らしかったのはファンの方々の反応です。応援して下さるファンの方々の顔を実際に見ることが出来て、家族が居て、友達が居て、私が放つすべてのショットを見守ってくれた。本当に特別なことだと思います。
―涙は?
A・S:この一週間、ずっと泣きそうでしたよ。涙は見せませんでしたけど、涙腺は常に刺激されていました。それはうれし涙でもあるんです。達成感を感じていたから、涙が溢れそうになったのだと思います。
―予選通過を諦めたのは?
A・S:今日はパーあるいはそれより良いスコアで回りたいと思っていました。前半のハーフを終えて、5オーバーだったので、バック9では3~4アンダーは出さなければいけない状況だと思っていました。10番は良かったのですが、14番のチャンスを外して15番はどうしても獲らなければならなかった。そのときはもうバーディしか狙っていませんでした。でもチャンスにパットを決めることが出来なかった。こうなると状況は難しくなります。
出来れば決めてスコアを伸ばしたかったのに残念です。本当はあと2ラウンド、プレイしたかったです。こういう形で終わりたくなかった。
―明日の朝目覚めたとき、人生はどう変わっているんでしょう?
A・S:日曜日の夜にシンガポールに飛ばなければならないんです。あと残り2試合ありますから。なので今のところ人生が大きく変わることはないでしょう。12月の15日にドバイから帰国して2日間プロアマに出て、12月20日にアリゾナ大学で講演したら、それで今年のスケジュールはほぼ終わり。
でも皮肉ですよね。講演するなんて、プロになった頃はスピーチが一番の苦手だったのに。それがツアープロとして最後の仕事になるんですから。でも私自身変わっていますから。ゴルフによって私は変わったんです。いい方に。それはうれしいことですね。
ツアー通算72勝、内メジャー10勝、ベストスコア59、身長168センチ
最終戦直前の記者会見の中では、アニカは“引退”という言葉を極力避け、“ツアーを離れる”という表現を多く使用し、“引退”ではなく、数年後またゴルフへのモチベーションが戻ればツアーへの復帰の可能性もあることを示唆した。
【アニカ・ソレンスタム最終戦直前記者会見内容】
「複雑な心境です。最終戦を迎えたと思うと寂しいですが、私は自分で決めたことに最後まで徹するタイプです。自分の未来にも大きな期待を抱いているので、いろいろな思いがありますが今週は楽しみながら良いプレーをしたいと思っています。先週の好調さ(2位タイ)を保って日曜日に大きな優勝賞金を獲得したいです。
“引退”という言葉を避けた理由はひとつじゃありません。ご存知のように私はいろいろなビジネスを手がけており今後数年間はかなり忙しくなることが予想されます。しかし、それも待ちきれません。私の人生における新たな1ページ、そして挑戦ですからね。
もしもまた練習したい、もう1度競技のゴルフをしたいと思うようになったら、戻ってくるかもしれません。それが2年後なのか、5年後なのか、あるいは全くないのか、今の私にはわかりません。今後の予定といえば2009年に結婚すること、そしてビジネスに専念すること、まずはそこからですね。
大切なのは、今の自分に満足しているということ。自分のやりたいことをやってきたその事実は今後変わることはありません。もう1勝する、あるいはあと3年プレーしたとしても、私のキャリアが変わることはないと思っています。そう思ったとき、そろそろ潮時じゃないかと思ったんです。
今年はコースにいてもローラーコースターに乗っているような感じでした。私はコースではゴルフに徹する冷たいスウェーデン人ですが、今年は違いました。でも、それも楽しみましたし、いろいろな意味で素晴らしい1年でした。たくさんのファン、あるいはメディアの皆さん、そして家族と一緒に自分のキャリアを振り返るいい機会だったと思います。そんな2008年は私の人生において最も充実した年のひとつでした。プレーの内容じゃなくて、思い出に残ったという意味でです」。