青春タイムトラベル ~ 昭和の街角

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幻の必殺技・山嵐!

2014-05-18 | スポーツの話題

「山嵐」。この柔道の技の名前を知っている人は多いと思いますが、見た事のある人は一体何人いるでしょう?中には小説やドラマ、映画の中だけの技と思っている人も多いと思います。でもこの小説「姿三四郎」で三四郎の必殺技として描かれている「山嵐」は実在する技なのです。でもなぜか見た事のある人は少ないんです。

「山嵐」は、柔道の講道館創始者の嘉納治五郎の弟子で、柔術との試合に勝利した西郷四郎の得意技として有名。1920年(大正9年)、講道館の手技が整理された際に分類から一旦除外されましたが、近年は復活して柔道の公式技として認定されています。西郷四郎の山嵐は非常に切れ味が鋭く、嘉納をして「西郷の前に山嵐なく、西郷の後に山嵐なし」と言わしめました。

富田常雄の小説「姿三四郎」(1942年)では、主人公三四郎は前記の西郷四郎をモデルに描かれており、本作の中で「山嵐」は三四郎が完成させた「必殺技」として登場しています。ところがこの小説のイメージが余りにも強かったことと、大正9年に講道館手技が整理された際に分類上除外されたことなどから、山嵐は「あまりにも強力な技であるが故に、禁断となった究極技」のような過大な印象で巷に名前だけが通るようになってしまいました。実際に幾度なく映像化された「姿三四郎」では、(黒澤明の監督デビュー作も姿三四郎です。)山嵐で投げられた相手が、まるで爆風で吹き飛ばされたように宙を飛んでいくといった過剰な描写であったため、ますます山嵐は「ものすごい超必殺技」という曲解が進んでしまいました。

柔道の金メダリストの斉藤仁選手が、TVドラマ「柔道一直線」の「地獄車」という技(架空の技で不可能です)を習いたくて柔道を始めたというエピソードは有名ですが、実は僕はこの「山嵐」を得意技にすべく、学生時代から練習を重ねて、何度かこの技で決めたことがあります!

「山嵐」は右構え(普通右利きの人がする構え)の場合、釣り手を相手の逆(右)襟に持ち、背負投(若しくは背負落)と「払い腰」を合わせたような形で投げる立技。足を払うため払腰又は体落としに近い形ですが、独特の格好良さがある技です。

またこの技は、小さな人が大きな人を投げるのに大変適した技でした。しかし実戦でなかなか見る事が出来ないのは、下手をすると「片襟」の反則になるからではないでしょうか?(片襟とは相手の片方の襟を両手で掴んでいる状態で、反則です。)

柔道はやたら立技が重視されていますが、この機会に話しておくと、寝技と締め技、関節技も、もっと重視すべきです。日本は「柔よく剛を制す」、「1本こそ柔道」と言いながら、寝技、締め技、関節技を軽視しています。小さな人間が大きな人間をやっつけるには寝技、締め技、関節技こそが有効です。同じ技術を持つ大きな人間と小さな人間が立ち技だけで試合をすれば大きな人間が100%有利です。しかし、寝てしまえば身体の大きは関係ありません。そこを寝技、締め技、関節技でしとめることこそ、「柔よく剛を制す」の1つです。

柔道家が総合格闘技の試合で負けることもありますが、あれはルールに負う所が大きい。もしリングをコンクリートにしてしまえば、柔道家やレスリングの選手は、投げ技1発で相手をKOできます。本当に我が身を守る時、柔道は本当に心強い武道です。だからこそ、学校の授業や部活では死亡事故さえ起きてしまいます。指導者の方には、十分気を付けて指導を行って欲しいと思います。