学生時代は、知らない映画があっては恥と言わんばかりに、年間200本以上映画を観に行っていました。しかし昔の名作を見ようと思えば努力が必要でした。当時はレンタルビデオもありません。
そこで、Lマガジンという関西一円の情報誌を買い、古い映画の4本立てなんかを低料金で上映している場末の映画館(二番館とか名画座と呼ばれていました。)を見つけて行くのです。西部劇からB級ホラーまで幅広く見ました。今思えばTVの深夜でも未放送、もちろんビデオ発売無しなんていう映画が多かったですが、時には良い作品もありました。
そうそう、そういう場所で観る映画は、フィルムにキズが付いていて、雨が降っていたものです。またGWや夏休み以外の通常の時は、ポルノ映画館に変身していました。こういう映画館では勿論パンフレットなどは売っていません。(笑)しかし時々チラシがおいてあったりしました。(これはまだましな二番館ですね。)
ここにあるチラシは当時上映していた映画の貴重なチラシですが、洋画なのかポルノなのか分からないところが凄いでしょう?誰もこんな作品知らないですよね。(セクハラではありませんので、貴重な資料としてご了承下さい。)
しかし本当の問題は上映している映画館とその地域でした。今とは違ってその当時は物騒な場所でした。昼間から飲み屋の路地で、空き瓶の残りの酒で宴会している浮浪者。当ホテルは安全ですと書いたビジネスホテル。靴を片方だけ売っている露店。そういう光景が目に飛び込んで来るのです。水溜まりと思ったら小便の溜りだったり…。それでも映画見たさに、そこへ行きました。
初めて危ない地域へ行った時、さっそく事件は起こりました。いきなり横丁から「紙くれー!」と叫びながら、浮浪者が飛付いて来ました。鼻血をしたたらせて。でもあの日はジョン・ウエイン特集(4本立て)だったので、怯まず行きました。ロードショーが千円の時代に4本5百円でした。映画館の中には、ほとんど人はいません。行き場の無いように見える人がポツンポツンといるだけです。
喉が渇いたので自動販売機でコーラを買ったんですが、どうも味が違う。良く見るとコカコーラの文字が色も字体も同じなのに「コカコーレ」と書かれています。よく一緒に行った友人のO氏は懐かしいプラッシーを買いましたが、これも「ブラッシー」。不気味で飲めませんでした。
映画を鑑賞中に痴漢にも遭ったことがあります。人の股間に手を伸ばしてくる。そして「場所を変えましょうよ。」と耳元に囁いて来るのです。逆らうとややこしいので、そこは大人しく付いて行くと行き先はトイレ。僕は当時柔道2段でしたから、適当にあしらって即座に退散!
ある時は、休憩時間にトイレに行ったら2人の浮浪者がそこで横になっていて、「兄ちゃん、まさかここで小便するつもりとちゃうやろなー」と脅かされた事もあります。(ほんならあそこは何する所や!)そういう恐い所で映画を見たものです。映画館内で痴漢をKOしたら、大勢の仲間に囲まれて、警官に救助されたこともありました。
勿論全国の名画座と言われるような映画館がそんな場所ではありません。いや、もう今ではそういう映画館は無くなっていると思います。僕の行っていた所がちょっと危ない地区だったのです。
地方に旅行して思わぬ映画を見つけてしまい、そこに入ってもいつも快適でした。ただ危険な映画館も実際にあるのは、映画マニアの方ならご存知でしょうし、エピソードの1つもお持ちだと思います。(私は名画座の悪口を書いているのではありません。)それくらい映画にのめり込んでいた時、私は本当に映画監督になりたいと思っていました。友人O氏は今、CMのプロデューサーとして活躍しています。映画館がさびれていく風景は、映画「ラストショー」で何となく感じていましたが、僕が名画座を回っている間に、レンタルビデオ屋がタケノコのように出現し始め、名画座は1軒づつ姿を消して行きました。