アーバンライフの愉しみ

北海道札幌近郊の暮らしの様子をお伝えしています。

石村博子著「脱露」

2025年02月16日 | 読書三昧

 

角川書店刊、書き下ろし356頁の大作。

「シベリア民間人抑留、凍土からの帰還」の副題が示す如く、終戦の混乱期、ソ連邦シベリアに抑留された民間人のその後を追跡したドキュメンタリーである。

本書で消息が明らかにされ著述されている人々は20人余だが、ウイキィ等によると、軍人、民間人合わせて57万5千人もの人々が過酷な抑留生活を送ったという。(内、死亡者は5万8千人の多きにのぼった)

本書は、主としてカラフト在住者の内、家族を追って内地に密航を企て、ソ連の沿岸警備隊に拿捕されたり、自動車事故の際(ソ連軍の)軍人に危害を加えようとしたと誤解され収容所送りとなったりした民間人の抑留生活を追った。

長い抑留生活の中、現地に居住する女性と結婚した人も居て、内地帰還に当たっては家族と生き別れになる不幸も存在した。

それらの人々の人生は、涙なくして読み進めることは出来なかった。

 

 

 

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中島京子著「うらはぐさ風土記」

2025年02月12日 | 読書三昧

 

「小説すばる」2022年11月~23年7月連載、集英社刊、273頁。

中島さんの最新刊「坂の中のまち」を借りたいと図書館へ行ったら、10人待ちとのことで、やむなく本書を借りてきて読んだ。

「うらはぐさ(風知草)」は、イネ科に属する日本の固有種で、本来、裏となるべき葉の面が上を向き、表裏あべこべになって生育することからこの名が付いたと言う。

主人公の「紗希」は離婚を期に米国から帰国し、武蔵野の一角に位置する「うらはぐさタウン」で母校の講師として暮らし始めるのだが・・・。

中島さん独特の柔らかいタッチの文章と穏やかな人間関係が紡ぎ出されていく物語で、肩ひじ張らず読み進めることができた。

この調子で行くと、今度は中島ホーリックに陥りそうな予感がする。ご一読をお勧めします。(お勧め度:★★)

 

 

 

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中野京子著「美貌のひと②」

2025年02月07日 | 読書三昧

 

PHP新書、201頁。

前書に続く美女(男)絵画の解説版。

描かれたのは、伝説の中のひと、芸術に愛されたひと、数奇な人生を辿ったひと、権力に翻弄されたひとびとである。

また、単に実在の人物を描くだけでなく、事象を擬人化して描くこともあるという。

これ(上図)がその代表作。

カトリックの7つの大罪のひとつ「虚栄」を、イギリス人の画家フランク・カドガン・クーパーが華麗に描いて見せた。

 

 

 

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中野京子著「美貌のひと」

2025年02月04日 | 読書三昧

 

PHP新書、201頁。

数々の絵画の解説で著名な中野さんの「美貌のひと」を拝見した。

掲載された美女(美男を含む)の絵画もさることながら、中野さんの硬派の解説が魅力的である。

例えば、フランツ・リストの肖像画に添えられた文章。

「美貌の青年がピアノの前に憂鬱そうに座り、だがいったん興が乗るとアクロバテイックな奏法に合わせて髪ふり乱し、時に弦が切れるほどの大音量を出し、ふっとまた夢想的になる。現実を忘れさせる。いつしか「リスト・マニア」と呼ばれる貴婦人たちの集団が各地に生まれた。いわゆる「追っかけ」だ・・・。」

とまぁ、そこに居合わせた如き解説が続く。

表紙の肖像画(部分)は、あるいはトルストイのアンナ・カレーニナではとされるクラムスコイの「忘れえぬ女」である。原画がこちらにあります。

 

 

 

 

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藤沢周平著「漆の実のみのる国」

2025年02月01日 | 読書三昧

 

「文藝春秋」1994年1月~97年3月連載(休載を含む)、全集第24巻356頁の大作。

年初以来、藤沢周平氏の作品を再読してホーリックに陥っている。

つまり、本書はその延長線上で、且つトドメにしようと思い借りてきて読んだもの。

江戸時代中期、米沢藩主上杉治憲(鷹山)が竹俣当綱を始めとする改革派に依拠しつつ、藩財政の再建を進めた過程を克明に描いた著者絶筆の長編時代小説。

良くここまで子細に調査して書いたなと感心する場面が多々あった。本小説の執筆で、著者は精魂尽き果てたのではと思った。

 

 

 

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藤沢周平著「静かな木」

2025年01月27日 | 読書三昧

 

1993~1996年「小説新潮」掲載 新潮文庫。

「静かな木」~藩の勘定方を退いてはや5年、孫左衛門もあと2年で還暦を迎える。

城下の寺に立つ欅の大木に心ひかれた彼は、見あげるたびに我が身を重ね合せ、平穏であるべき老境の日々を願っていたのだが・・・。

練達の筆がとらえた人生の哀歓。著者最晩年の三篇。

他に、「岡安家の犬」と「偉丈夫」を収める。

 

 

 

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本間ひろむ著「アルゲリッチとポリーニ」

2025年01月22日 | 読書三昧


光文社新書 227頁。

共に、ショパン国際ピアノコンクールを制した二人だが、その演奏スタイルは大いに異なっている。

アルゲリッチは、「感情豊かに感性で弾く」が、ポリーニは「完全無欠な演奏」に徹する。

こうした演奏スタイルの違いは、二人の私生活の違いにも現れていて、アルゲリッチには3人の娘がいるが、いずれも父親が異なるという。

ポリーニは、コンクールに優勝した後、ミラノの大学で物理学と美学を専攻、勉学に励んだ。

クラシック界に君臨した二人だが、正直、小生はシンパシーを感じることはなく保有するアルバムもほとんどない。

 

 

 

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直木賞に伊与原新氏

2025年01月18日 | 読書三昧

2024年下期第172回直木賞は、伊与原新氏の「藍を継ぐ海」が受賞した由。

この作品はまだ読んでいないが、第164回(2020年下期)の候補作となった同氏の「八月の銀の雪」を感心しながら読んだ記憶がある。

その点、今回も科学者の目を通した新しい視点での物語を大いに期待している。(昨夜、市の図書館に予約を入れたら待機者の11番目の由)

 

 

 

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樋口恵子・和田秀樹著「うまく老いる~楽しげに90歳の壁を乗り越えるコ ツ」

2025年01月17日 | 読書三昧

 

講談社+α新書 215頁。

91歳の樋口氏とまだ老境に差しかかったばかり(63歳)の和田医師との言わば、老いを吹き飛ばせ対談集。

主な内容は~

①理想的終末期として誰もが望む「ピンコロ」はそうた易くない。
②ピンピンとコロリとの間には、長い「ヨタヘロ期」がある。
③ヨタヘロ期を生き抜くカギは、「意欲」である。
④意欲を形作るのは、アウトプットである。人と話す、SNSの利用など。
⑤高齢者でなく「幸齢者」になろう。
⑥老人よ、お肉を食べて元気を出そう。

など、大いに参考になった。ご一読をお勧めします。(お勧め度:★★)

 

 

 

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藤沢周平著「刺客の凶刃~用心棒日月抄」など

2025年01月15日 | 読書三昧

 

「小説新潮」1981年11月~91年5月掲載、全集第10巻440頁。

掲題作と「凶刃」を収めたのが全集第10巻である。

第9巻の「用心棒日月抄」と「孤剣」に続く、同氏の人気シリーズ。

物語~江戸中期、藩の内紛をめぐり合い争う派閥の死闘を描く。
主人公の青江又八郎は、藩の密命により脱藩して浪人となり、江戸藩邸内の主流派支援のため活動するのだが・・・。

密命と浪人無頼とのギャップに悩みながらも、用心棒稼業に精出す日々を送る。また、無類の剣豪振りもエンタメ性抜群で楽しめる。

 

 

 

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